はじめに
労働組合・団体交渉への対応いかんによっては、労働組合から「不当労働行為だ」と主張され、トラブルに巻き込まれることがあります。
自社に労働組合が存在しない企業・法人であっても、労働者1人でも加入できる社外の合同労組・ユニオンがあり、合同労組・ユニオンへの対応が不当労働行為として問題とされることがあります。
このページでは、企業・法人が労働組合・団体交渉への対応において理解しておく必要がある不当労働行為のポイントについて、ご説明させていただきます。
不当労働行為とは
不当労働行為とは、分かりやすく言うと、労働組合の活動に対する妨害行為のことです。
不当労働行為の具体的な内容は、労働組合法という法律で定められています。
以下のように、団体交渉拒否、不利益取扱い、支配介入、経費援助、黄犬契約の5つが不当労働行為とされる行為です。
(1)団体交渉拒否
団体交渉拒否とは、企業・法人が労働組合からの団体交渉の申し入れを正当な理由なく拒否することを言います。
交渉自体を拒否することだけではなく、必要な資料の開示を拒否するとか、直接会わずに文書や電話での回答のみとするなど、不誠実交渉(誠実に交渉しないこと)もまた、団体交渉拒否とみなされます。
一方で、企業・法人側の弁護士が交渉に参加することを労働組合が拒否しているとか、労働組合がすでに裁判で決着した問題について交渉を求めてきているなど、正当な理由がある場合には、団体交渉を拒否しても不当労働行為とはなりません。
(2)不利益取扱い
不利益取扱いとは、労働組合の組合員であることや組合活動をしたことを理由として、企業・法人が従業員に不利益な取扱いをすることを言います。
例えば、労働組合に加入したことを理由に解雇するとか、団体交渉を申し込んだことを理由に降格させるなどの取扱いは、不利益取扱いとして不当労働行為に該当します。
一方で、労働組合に加入している従業員を解雇したり、降格させたりした場合であっても、組合活動が解雇や降格の理由でなければ、不当労働行為とはなりません。
不当労働行為に該当するかどうかは、組合活動を理由に不利益取扱いをしたのか、別の理由で不利益取扱いをしたのかが、判断の分かれ目となります。
そして、この判断は、最終的には裁判になったときに裁判官が判断することとなります。
ここで、経営者が日頃から労働組合に対する嫌悪の言動をしていた場合には、裁判官に「この経営者は日頃から労働組合を嫌っているのだから、組合活動を理由として不利益取扱いをしたのではないか?」という不利な心証を持たれるおそれがあります。
そのため、企業・法人の経営者としては、労働組合に対する嫌悪の言動は、厳に慎むべきでしょう。
(3)支配介入
支配介入とは、企業・法人が労働組合を支配し、または、労働組合の結成や運営に介入することを言います。
例えば、労働組合への加入の有無・組合活動への参加の有無に関するアンケート調査を実施すること、「労働組合に加入していると昇進に不利になる」などと述べて圧力をかけること、度を超えた労働組合批判の発言を行うことなどが、支配介入として不当労働行為に該当するものとなります。
(4)経費援助
経費援助とは、企業・法人が労働組合の活動資金を援助することを言います。
経費援助は、企業・法人が経費を援助することによって労働組合を支配し、弱体化させる方策として利用されることがあるため、不当労働行為として禁止されています。
例えば、組合事務所で使用する備品代や電話代を負担すること、組合会議のための出張を有給扱いとすることなどが、経費援助として不当労働行為に該当するものとなります。
(5)黄犬契約
黄犬契約とは、労働者を雇い入れるときに、労働組合に加入したことを雇用の条件にすること、あるいは、すでに労働者が労働組合に入っている場合に、労働組合から脱退することを雇用の条件とすることを言います。
例えば、従業員の採用時に、労働組合に加入しないことを約束する誓約書を書かせることなどは、黄犬契約として不当労働行為に該当します。
不当労働行為に対するペナルティ
企業・法人が不当労働行為を行った場合には、以下のように、労働委員会による救済命令、損害賠償・慰謝料、不当解雇の無効というペナルティがあります。
(1)労働委員会による救済命令
不当労働行為を受けた労働組合や組合員は、都道府県の労働委員会に対し、救済命令を出してもらうように申し立てることができます。
救済命令とは、都道府県の労働委員会が企業・法人に対し、不当労働行為を中止するように命令することを言います。
救済命令の内容としては、①団体交渉拒否に対し、今後は団体交渉を誠実に行うように命じるとともに、「今後は団体交渉を拒否しません」という内容の文書を労働組合に交付することを命じるケース、②組合活動を理由とする解雇(不利益取扱い)に対し、組合員を復職させ、かつ、解雇から復職までの間に支払われなかった給与の支払を命じるケースなどがあります。
都道府県の労働委員会の救済命令に不服がある場合には、中央労働委員会に対して再審査を申し立て、あるいは、裁判所に対して救済命令の取消しを求める訴訟(取消訴訟)を提起して、争うことができます。
しかし、取消訴訟を提起せずに救済命令が確定した後に、救済命令に違反した場合には、50万円以下の過料が科されます。
また、取消訴訟を提起したものの、裁判所が救済命令の取消しを認めなかった場合には、救済命令が確定し、その後に救済命令に違反した場合には、1年以下の禁固または100万円以下の罰金が科されます。
(2)損害賠償・慰謝料
企業・法人が不当労働行為を行った場合、従業員や労働組合に対して、損害賠償や慰謝料を支払う義務を負うことがあります。
(3)解雇・降格などの無効
労働組合への加入や組合活動への参加を理由に解雇・降格などを行った場合、その解雇・降格などが無効とされ、裁判所で、従業員を復職させること、元の職位に戻すことなどを命じられることがあります。
また、合わせて、損害賠償の支払を命じられることもあります。
弁護士にご相談ください
以上のように、労働組合・団体交渉への対応を誤ると、様々なペナルティがあるため、企業・法人としては十分に注意しなければなりません。
労働組合・団体交渉への対応については、労働関係法令に精通した弁護士のサポートを受けながら、慎重に対応していくことが大切です。
また、不当労働行為をめぐる救済命令の申立て、訴訟の提起を受けるなどのトラブルが発生した場合には、専門家である弁護士を立てて対応することが必須となるでしょう。
当事務所の弁護士は、これまでに、団体交渉への同席対応、不当労働行為の救済命令の手続への対応など、労務問題の取扱実績が豊富にございます。
不当労働行為に関することでお困りの企業・法人様がいらっしゃいましたら、当事務所にご相談いただければと存じます。
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