1 発信者情報開示請求とは
発信者情報開示請求とは、インターネット上で、自身に対する誹謗中傷記事が投稿された場合に、その投稿をした人物を特定する請求のことをいいます。
発信者情報請求をして投稿した人物を特定することにより、①金銭的な賠償を求める損害賠償請求、②今後2度と投稿しないようにする将来の差止請求、③謝罪を求めることなどが可能になります。
2 発信者情報開示請求の流れ
発信者情報開示請求は、主に以下の3つの手続を行う必要があります。
①サイト管理者(コンテンツプロバイダ)に対して、投稿者のIPアドレス等を開示させる手続
②開示されたIPアドレス等に基づき投稿の際に投稿者が利用したアクセスプロバイダを特定し、アクセスプロバイダに対して記録の消去を禁止し、記録を保存させておく手続
③投稿者が利用したアクセスプロバイダに対して、投稿者の住所氏名を開示させる手続
①サイト管理者(コンテンツプロバイダ)に対して、投稿者のIPアドレス等を開示させる手続について
①の手続において開示を求めるIPアドレスとは、インターネット上において、パソコンや携帯電話に対して割り当てられる番号であり、アドレスという名のとおり、インターネット上の住所と考えてもらえればイメージがつきやすいのではないかと思います。
①の手続においては、サイト管理者(コンテンツプロバイダ)に対して、投稿者に割り当てられているIPアドレスを、任意に開示を求める方法と、サイト管理者(コンテンツプロバイダ)を相手方として、裁判所に対して仮処分手続を申立てる方法の2つがあります。
もっとも、任意に開示を求める方法には強制力がないため、開示されないことも珍しくありません。
そのため、①の手続においては、裁判所に対してIPアドレスの開示を求める仮処分手続を申し立て、裁判所からサイト管理者に対してIPアドレス等の開示に応じるように命じる決定を出してもらう方法によることが多いです。
②開示されたIPアドレス等に基づき投稿の際に投稿者が利用したアクセスプロバイダを特定し、アクセスプロバイダに対して記録の消去を禁止し、記録を保存させておく手続について
通常アクセスプロバイダは、利用者の接続時間に対応するIPアドレス等の記録について、3か月から6か月程度保存していますが、この期間を経過すると、記録を削除しています。
そのため、②の手続において、接続したアクセスプロバイダを特定して、投稿者の投稿時におけるIPアドレスに関する記録の消去を禁止し、記録を保存する手続を行う必要が生じてきます。
②の手続において、投稿者の投稿時におけるIPアドレスに関する記録の消去を禁止し、記録を保存する方法としては、アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求書によって記録の保存を依頼する、アクセスプロバイダに対してログ保存依頼書によって記録の保存を依頼する、ログ保存の仮処分手続を裁判所に申し立てる、という3つの方法が、実務において用いられています。
発信者情報開示請求書は、投稿者の住所・氏名の開示を求める内容の書面を提出して行いますが、実務的には、アクセスプロバイダがこの請求に応じることは多くありません。
もっとも、アクセスプロバイダの対応としては、“住所・氏名は開示しませんが、任意に記録を保存する”旨の回答をしてくることが多いです。
そのため、実務上、発信者情報開示請求書によって記録の保存を依頼するという方法が用いられています。
ログ保存依頼書によって記録の保存を依頼した場合、アクセスプロバイダによってはこれを無視したり拒否したりすることがあるため、発信者情報開示請求書によって記録の保存を依頼する方法と合わせて行うことが多いです。
もっとも、アクセスプロバイダによっては、ログ保存依頼書と発信者情報開示請求書によって記録の保存を依頼しても、これに応じない事業者がいます。
このようなアクセスプロバイダの場合には、ログ保存の仮処分手続を裁判所に申し立てる方法によって、記録の保存をさせることが必要になってきます。
なお、アクセスプロバイダとは、携帯電話やパソコンがインターネットに接続するサービスを提供している事業者のことを指します。
携帯電話会社であるソフトバンク、KDDI、NTTドコモは、アクセスプロバイダに該当します。
③投稿者が利用したアクセスプロバイダに対して、投稿者の住所氏名を開示させる手続について
③の手続を行っていく方法としては、発信者情報開示請求書による方法と、アクセスプロバイダを被告として、裁判所に、発信者情報開示請求訴訟を提起する方法があります。
既に②の手続に関する項目でご説明しましたが、発信者情報開示請求書によって、投稿者の住所氏名を開示するように請求しても、アクセスプロバイダが、住所氏名の開示に応じることは多くありません。
そのため、③の手続では、アクセスプロバイダを被告として、裁判所に、発信者情報開示請求訴訟を提起する方法を用いるのが一般的です。
3 必要期間
①から③の手続によって、投稿者を特定するために必要な期間としては、平均的に8か月から10か月程度の期間が必要になってくることが多いです。
ただし、各手続において、どのような方法を採る必要があるのか、サイト管理者(コンテンツプロバイダ)やアクセスプロバイダが、こちらの主張に対して、どの程度争ってくるのかによって、必要な期間は大きく変わってくることがあります。
4 重要ポイント
発信者情報開示請求を行う上では
・投稿記事によって、権利が侵害されたことが明らかであるかを十分に検討すること
・誹謗中傷記事が投稿されたのを発見した後、迅速に進めること
の2つが大きなポイントになってきます。
投稿記事によって、権利が侵害されたことが明らかであるかを十分に検討すること
投稿された記事が、ご自身の権利を侵害していることが明らかであるといえるのか、とりわけ、投稿記事が自身に向けられた投稿であること、権利の侵害が一般的な観点からみても明らかであること、の2点が求められます。
そのため、この2点については、十分に検討する必要があります。
そして、ご自身の権利が侵害されていることを、最終的には第三者である裁判官に理解してもらう必要があるため、そのために必要な資料について、十分に準備する必要があります。
誹謗中傷記事が投稿されたのを発見した後、迅速に進めること
②の手続の説明の際にも説明しましたが、アクセスプロバイダが、投稿者の記録を保存している期間は、一般的に3か月から6か月と短期間であり、この期間が経過すると、記録は削除されてしまいます。
記録が削除される前までに、アクセスプロバイダに記録を保存してもらう必要があるので、誹謗中傷記事が投稿された後、3か月から6か月の間に、②の手続までを完了しなければなりません。
そのため、誹謗中傷記事が投稿されたのを発見した後は、迅速に発信者情報開示請求の手続を進めていかなければなりません。
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