弁護士・山口龍介
八戸シティ法律事務所 所長

主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。

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はじめに

経営者の方からの残業代に関するご相談で、「うちの会社で 店長/課長/主任/マネージャー/リーダー の地位にある者から残業代の話が出たけれども、管理職なので、残業代は支払わなくても大丈夫ですよね?」という質問をお受けすることがあります。

労働基準法上の「管理監督者」に該当すれば、同法の労働時間・休憩・休日に関する制限を受けませんので、企業は残業代(深夜割増賃金を除く)を支払わなくても問題ありません。
しかし、労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかの判断や請求への対応を誤ってしまった結果、多額の残業代の支払いリスクを抱えてしまう場合もあります。
そこで、このコラムでは、管理職・管理監督者からの残業代請求への対応についてご説明いたします。

1 管理監督者とは

労働基準法上の管理監督者とは、「監督若しくは管理の地位にある者」(労働基準法41条2号)を指し、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者のことです。

そして、労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかは、肩書や職位・役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務対応、賃金等の待遇という実態によって判断するとされています(この点については、後記「3 管理監督者に該当するための要件」で詳しくご説明いたします)。

また、上記のとおり実態によって判断するとされていることから、企業内で管理職・管理監督者としての地位にある者が、必ずしも労働基準法上の管理監督者に該当するわけではないことにも注意が必要です(この点についても、後記「4 管理職と管理監督者」で詳しくご説明いたします)。

2 管理監督者の残業代と労働時間管理

(1)管理監督者の残業代

先ほど述べたとおり、労働基準法上の管理監督者(労働基準法41条2号)に該当すれば、同法の労働時間・休憩・休日に関する制限を受けません。
そのため、その者が労働時間等の制限を超えて働いても、企業は、時間外割増賃金や休日割増賃金を支払う必要はありません。

ただし、深夜割増賃金の特例はないことには注意が必要です(深夜割増賃金に関する規定は適用除外になっていません)。
したがって、労働基準法上の管理監督者であっても、深夜残業(22時~翌日5時まで)の割増賃金は支払わなければなりません。
なお、年次有給休暇の特例もありませんので、年次有給休暇も一般労働者と同様に付与する必要があります。

(2)管理監督者の労働時間管理

労働基準法上の管理監督者であっても、同法によって保護されている労働者であることには変わりありません。
そのため、労働基準法の労働時間・休憩・休日に関する制限を受けないからといって、何時間働いても構わないということではなく、健康を害するような長時間労働をさせてはなりません。

この点で、働き方改革関連法案として、2019年4月より労働安全衛生法が改正され、管理監督者についても、労働時間の状況を把握することが義務付けられています。
また、長時間労働となった場合には、同じく労働安全衛生法に基づき、医師による面接指導等の健康管理に係る措置が必要となる場合もあります。

3 管理監督者に該当するための要件

労働基準法上の管理監督者に該当するための要件について、以下で詳しくご説明いたします。
もし、ここでご説明する判断基準に基づいて総合的に判断した結果、労働基準法上の管理監督者に該当しないとなった場合には、同法で定める労働時間等の制限を受け、時間外割増賃金や休日割増賃金を支払わなければならなくなりますので、非常に重要な部分となります。

(1)職務内容

労働基準法上の管理監督者であると言うためには、「労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な【職務内容】を有していること」が要件となります。
ここでは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、労働時間等の規制を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有しているかどうかで判断されます。

裁判例では、「職務内容が少なくとも部門全体の統括的な立場にあること」としているものがあり、一つの指標として参考になるでしょう。
「重要な【職務内容】」としては、従業員の採用・解雇、部下の人事考課・労働時間の管理(勤務割表の作成、所定時間外労働の命令)といった職務が挙げられます。

(2)責任と権限

次に、「労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な【責任と権限】を有していること」が要件となります。
ここでも、労働条件の決定その他労務管理について経営者から重要な責任と権限をゆだねられているかどうかで判断されます。

裁判例では、「部下に対する労務管理上の決定権限等につき一定の裁量権を有し、人事考課・機密事項に接していること」としているものがあり、一つの指標として参考になるでしょう。
「重要な【責任と権限】を有していること」としては、従業員の採用、部下の労働時間の管理(勤務割表の作成、所定時間外労働の命令)を行う責任と権限を実質的に有していることが挙げられます。

逆に、自らの裁量で行使できる権限が少なく、多くの事項について上司に決裁を仰ぐ必要があるとか、上司の命令を部下に伝達するに過ぎないような者は、管理監督者とはいえないということになります。

(3)勤務態様

さらに、「現実の【勤務態様】も労働時間等の規制になじまないようなものであること」も要件となります。
管理監督者は、時を選ばす経営上の判断や対応が求められますので、労務管理においても一般の労働者と異なる立場にある必要があります。

裁判例では、「自己の出退勤を自ら決定する権限があること」としているものがあり、一つの指標として参考になるでしょう。
管理監督者に該当するための「現実の【勤務態様】」としては、次の点がポイントとなります。

・遅刻・早退等があっても、減給や人事考課でのマイナス評価などの不利益な取り扱いはされないこと。
・労働時間に関する裁量があること。
・部下と異なる勤務態様で働いていること。

(4)賃金等の待遇

そして、「【賃金等】について、その地位にふさわしい【待遇】がなされていること」も要件となります。
管理監督者は、その職務の重要性から、定期給与、賞与、その他の待遇において、一般の労働者と比較して相応の待遇がなされている必要があります。

裁判例では、「管理職手当などで時間外手当が支給されないことを十分に補っていること」としているものがあり、一つの指標として参考になるでしょう。
「【賃金等】【待遇】」において、次のような場合は、管理監督者を否定する要素となりますので、注意が必要です。

・基本給、役職手当等の優遇措置が、実際の労働時間数を勘案した場合に、割増賃金の規定が適用除外となることを考慮すると十分ではないと認められる場合。
・一年間に支払われた賃金の総額が、その企業の一般の労働者の賃金総額と同程度以下である場合。
・長時間労働の結果、時間単価に換算した賃金額において、その企業のパート・アルバイト等の賃金額に満たない場合(最低賃金額に満たない場合は、管理監督者を否定する極めて重要な要素になります)。

4 管理職と管理監督者

冒頭で述べましたとおり、企業内で管理職としての地位にある者が、必ずしも労働基準法上の管理監督者に該当するわけではないことには十分に注意が必要です。

例えば、部長という一般的には管理職と呼ばれる地位にある者であっても、従業員を採用する権限は与えられていなかったり、多くの事項について上司に決裁を仰ぐ必要があったり、上司の命令を部下に伝達するに過ぎなかったりと、企業によって扱いは様々であり、部長というだけで労働基準法上の管理監督者に該当するとは限りません。

管理職の肩書や職位・役職名を与えられていても、実態を見ると管理監督者とはいえない、いわゆる「名ばかり管理職」に対しては、残業代を支払わなければならないことになります。

なお、人事・労務に関する機密情報に接する地位にある労働者は、労働組合法では「監督的地位にある労働者」として非組合員になります。
しかし、自ら労務管理を行う責任と権限を有していない、勤務時間について厳格な制限を受けている、賃金等についてふさわしい待遇がなされていないといった場合には、労働基準法上の管理監督者には該当しないことになります。

5 管理職・管理監督者から残業代請求を受けた場合の対応

(1)残業代請求への対応の方針を決める

管理職・管理監督者から残業代請求を受けた場合、まずは労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかの見通しを立てることが必須となります。
その際には、これまで述べてきたような判断基準に沿って検討します。

そして、労働基準法上の管理監督者に該当することについて、訴訟で十分に主張・立証していけるレベルなのか、示談交渉において強気で話をしていけるレベルなのかといった、該当性の度合と証明の度合い(証拠の有無)を見極めます。

上記のようなレベルに達していれば、費用対効果を踏まえた経営判断の選択肢が広がります。
例えば、示談交渉の段階で、「裁判になっても、会社としては、管理監督者に該当することを十分に主張できるし、その証拠もあると考えているが、早期解決のため、金銭の提示をする。」という交渉も容易になります。

(2)管理監督者に該当することの主張・立証が困難な場合の対応

判断基準に照らして検討した結果、労働基準法上の管理監督者に該当することの主張・立証が困難な場合(どう頑張っても無理筋な主張である場合、裏付けとなる証拠が無い場合)、支払い金額を出来る限り抑えることに方針転換しなければなりません。

すなわち、実労働時間はどうであったか、不就労時間は無いのか等、残業代を算定する上での労働時間を適正な範囲に収める方針に転換する必要があり、労働時間に関する主張・立証を検討していくことになります。

ここで、管理監督者であるとの取り扱いをしていた以上、その者の労働時間を厳密に管理していない場合が多く、客観的な記録が乏しい中での主張・立証とならざるを得ない場合が多いと考えられます。

しかし、そのような中でも、可能な限りの調査と証拠の収集をする必要があり、例えば、始業時刻、終業時刻に加え、中抜け時間も調査し、証拠を収集することが考えられます。

本人自身が「自分は管理職・管理監督者である」という認識でいたでしょうから、「働く時間は自由だ」という意識で、遅い時間の出社が日常化していたり、頻繁に中抜けをしていたり、業務時間中に私的な事をしていた場合もあり得ます。
証拠の一つとしては、そのような遅い時間の出社の日常化、頻繁な中抜けなどについて、その者の部下の証言を集めることがあるでしょう。

(3)今後の管理職・管理監督者の取り扱いを検討する

管理職・管理監督者からの残業代請求には、企業にとって次のような深刻なリスクがあるといえます。

・労働基準法上の管理監督者に該当する要件のハードルが高く、否定される可能性が高い。
・管理職・管理監督者としての取り扱いをしていたため、固定残業代が支払われていないこと、管理職・管理監督者の給料は高いので割増賃金の基礎単価が高額になること、緊急対応や上限規制を超える働き方をしていて労働時間が長いこと、などから支払額が高額となる可能性が高い。

そして、管理職・管理監督者の地位にある者の一人から未払い残業代の請求があった場合、他の管理職・管理監督者の地位にある者からも請求をうけるリスクがあります。
そのため、その請求への対応と同時進行で、今後の管理職・管理監督者の取り扱いを見直すことが喫緊の課題となります。

先に述べました通り、労働基準法上の管理監督者についても労働時間の状況を把握することが義務付けられましたので、「管理職・管理監督者として取り扱っていたので、労働時間に関する資料はありません。」という主張は通用しなくなります。
そのため、労働時間に関する資料が無いことについて、請求する側が労働時間の立証ができないとして不利にされるのではなく、請求を受けた企業側に不利に影響することも考えらえます。

このことから、管理職・管理監督者として取り扱っている全ての者について、労働時間の状況を把握しつつ、さらに、このまま管理職・管理監督者として取り扱うのか、あるいは労働基準法上の管理監督者の判断基準をもとにした一定のラインを引いて、そこから下は肩書や職位・役職名に関わらず割増賃金を支払っていくことにするのか等を検討する必要があるでしょう。

記事作成弁護士:山口龍介
記事更新日:2023年11月22日

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