弁護士・木村哲也
代表弁護士
主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。
はじめに
協調性がない社員への対応は、企業において問題となりやすい事項のひとつです。
協調性の有無は主観的な判断になりやすく、協調性がないことを理由とする処分について、処分理由を客観的に立証することが困難な場合も多いです。
また、協調性がない従業員の中には、労務トラブルを度々起こし、労働関係の法律に詳しい者もいるため、慎重に対応することが大切です。
今回のコラムでは、協調性がない従業員への対応について、ご説明させていただきます。
1 協調性がない従業員の例
□他の従業員と頻繁に揉める。
□顧客・取引先からのクレームが多く発生する。
□業務命令や注意・指導に反発し、従わない。
□独自の理論、自分のやり方にこだわる。
□すぐに他人のせいにし、責任転嫁する。
協調性がない社員は、他の社員や顧客・取引先とのトラブルを発生させることがあり、周囲への悪影響が非常に大きいです。
トラブルの発生による生産性の低下、職場環境の悪化などの問題が生じ、経営者・人事担当者の頭を悩ませることでしょう。
協調性がない社員は、自分の考えを曲げない人物も多く、注意・指導による改善が困難なことも少なくありません。
しかし、事業目的を達成するためには、協調性がない社員に適正に対応し、問題を解決していかなければなりません。
2 協調性がない従業員を解雇できるか?
協調性がない社員を解雇してよいか?という問題があります。
この点、労働法の理解なく安易な解雇に踏み切れば、後々トラブルになるおそれがありますので、注意が必要です。
以下では、解雇を検討する際の注意点をご説明させていただきます。
(1)解雇の要件
労働契約法16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされています。
協調性がないことを理由とする解雇についても、①客観的に合理的な理由があること、②社会通念上の相当性があることが解雇の有効要件となります。
これらの要件を満たさなければ、解雇は無効とされてしまいます。
(2)検討が必要なポイント
上記のような解雇の要件を踏まえ、解雇を判断する際には以下のようなポイントを検討する必要があります。
①従業員の問題行為の内容・程度。
②従業員の問題行為を行った理由・原因。
③従業員の問題行為による業務上の支障の内容・程度。
④従業員の問題行為に対する注意・指導の有無・内容。
⑤注意・指導に対する従業員の態度・改善の見込み。
そして、協調性を欠く行為の内容・程度が著しく、その理由・原因が身勝手なものであり、業務上の支障も甚大であるのに対し、注意・指導を尽くしても改善の見込みがないと言えるような場合には、解雇が有効とされるでしょう。
解雇が有効とされるハードルは相当高いものですので、慎重にご検討いただく必要があります。
(3)証拠の確保
解雇を有効とするためには、解雇の正当性を裏付ける事実関係を客観的な証拠により立証する必要があります。
協調性がないことを理由とする解雇の場合には、「言った、言わない」の争いになれば企業にとって不利ですので、証拠の確保が重要な課題となります。
注意書・指導書など、従業員の問題行動があったこと、および企業が注意・指導を尽くしたことの記録は、最低限とっておくようにしましょう。
3 協調性がない従業員への対応
協調性がない社員は、放置すると周囲への悪影響が大きいため、適正に対応していかなければなりません。
以下では、協調性がない社員への対応の方法について、ご説明させていただきます。
(1)注意・指導
まずは、注意・指導を行うのが基本です。
注意・指導は、協調性の欠如を改善させることを目的とするものですので、具体的な問題行為(協調性に欠ける言動)と改善策(どのようにすればよいか)を示すことが大切です。
単に「もっと協調性をもって仕事をするように」、「どうすればよいかは自分で考えてください」などと伝えても、具体的に何をどうすればよいか分からず、改善のための注意・指導を尽くしたものとは言えません。
【関連コラム】
●もめないための問題社員の指導方法を弁護士がわかりやすく解説
(2)人事異動・配置転換
一定規模の企業であれば、解雇の有効性を判断する際に、人事異動・配置転換をしたかどうかが問われることがあります。
共同作業が少ない業務を担当させたり、一緒に仕事をするメンバーを変えたりすることにより、協調性に欠ける言動が抑え込まれる可能性もあります。
降格人事により反省を促すという方法もあります。
そのため、いきなり解雇に踏み切るのではなく、まずは人事異動・配置転換による解決を試みるべきであると考えられているのです。
そして、異動先でも問題を起こすようであれば、環境の問題ではなく本人に問題があることが明らかになります。
また、降格人事を受けても反省せず、改善が見られないようであれば、やはり問題の大きい人物であるということになるでしょう。
そうなれば、最終的に解雇をすることとなった場合に、解雇を有効とする判断に傾くこととなります。
なお、規模の小さな会社であれば、現実的な問題として、人事異動・配置転換による対応が難しいことも多いでしょう。
そのため、このような対応が求められるのは、ある程度規模の大きな会社に限られます。
【関連ページ】
●人事異動・配置転換
(3)懲戒処分
注意・指導をしても協調性に欠ける言動が改まらず、それが就業規則上の懲戒事由に該当する場合には、懲戒処分を検討することとなります。
懲戒処分を行う場合、まずは「戒告・けん責・訓戒」などの軽い処分を選択し、それでも改善しない場合に「出勤停止」等のより重い処分をしていくのが通常です。
問題行為の内容・程度と懲戒処分の重さには、バランスが取れている必要があります。
また、懲戒処分を行う際には、弁明の機会を与えるべきであり、就業規則で懲戒委員会の決議などの手続の定めがある場合には、規定の手続を履行する必要があります。
【関連ページ】
●懲戒処分
(4)退職勧奨
注意・指導や懲戒処分による対応を尽くしても改善が見られない場合には、辞めてもらう方向で検討していくこととなるでしょう。
前述のとおり、解雇が有効と認められるためのハードルは高いものであるため、解雇の前に「退職勧奨」を行うことが有力な選択肢となります。
退職勧奨とは、企業が従業員に対し、退職を促すことを言います。
退職勧奨を行うこと自体は、違法とされるものではありません。
しかし、長時間・多数回の退職勧奨を行う、「退職届を出さなければ解雇する」と発言するなど、退職の強要にあたる言動があれば後々トラブルになるおそれがありますので、注意が必要です。
従業員が退職することに応じた場合には、退職の条件を記載した退職合意書を取り交わすなどし、後々トラブルが発生しないように備えるようにしましょう。
【関連ページ】
●退職勧奨
(5)解雇
注意・指導や懲戒処分による対応を尽くしても改善せず、退職勧奨にも応じない場合には、解雇を検討せざるを得ません。
ただし、前述したような解雇の有効要件、解雇の正当性を裏付ける証拠の有無など、解雇に踏み切る際には慎重な検討が必要となります。
【関連ページ】
●解雇
4 問題社員対応の書式
本サイトでは、問題社員対応に活用できる様々な書式をご用意しております。
詳しくは、以下のコラム記事をご参照ください。
【関連コラム】
●問題社員対応における指導書・注意書・懲戒処分通知書・退職合意書・解雇通知書等の書式
●問題社員対応にも使える本採用拒否・試用期間の延長・雇い止め・内定取消・人事異動・配置転換の書式
5 弁護士にご相談ください
協調性がない従業員への対応については、慎重に検討・実行していく必要があります。
協調性がない従業員のことでお悩みの企業様は、労務問題に詳しい弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
記事作成弁護士:木村哲也
記事更新日:2024年1月22日
当事務所の問題社員に対する注意指導・懲戒処分サポートの流れ
問題社員に対する注意指導・懲戒処分について当事務所にご相談・ご依頼いただく場合の解決までの流れは、次のとおりです。
①ご相談
弁護士が対象となる問題社員の業務内容・問題点、これまでの対応などを詳しくお聞きし、今後の対応方針を検討・提案いたします。
②ご依頼
対応方針が決まったら、ご希望により弁護士に注意指導・懲戒処分のサポート業務をご依頼いただきます。
③お打ち合わせ
会社担当者様と弁護士とで具体的な注意指導・懲戒処分の内容・段取りについてお打ち合わせをし、当日の対応に備えます。
弁護士が必要に応じて注意書・指導書・懲戒処分通知書などの書面を作成いたします。
④同席対応
弁護士が会社を訪問し、対象となる問題社員との面談に同席いたします。
面談の席において、弁護士が注意指導・懲戒処分の言い渡しをサポートいたします。
当事務所の問題社員に対する退職勧奨・解雇サポートの流れ
問題社員に対する退職勧奨・解雇について当事務所にご相談・ご依頼いただく場合の解決までの流れは、次のとおりです。
①ご相談
弁護士が対象となる問題社員の業務内容・問題点、これまでの対応などを詳しくお聞きし、今後の対応方針を検討・提案いたします。
②ご依頼
対応方針が決まったら、ご希望により弁護士に退職勧奨・解雇のサポート業務をご依頼いただきます。
③お打ち合わせ
会社担当者様と弁護士とで具体的な退職勧奨・解雇の内容・段取りについてお打ち合わせをし、当日の対応に備えます。
弁護士が必要に応じて退職合意書・解雇通知書などの書面を作成いたします。
④退職勧奨のサポート
弁護士が会社を訪問し、退職勧奨の面談に同席いたします。
面談の席において、弁護士が退職強要とならないようにサポートし、退職の同意が得られた場合には、退職合意書の取り交わしを行います。
⑤解雇のサポート
退職勧奨をしても退職の同意を得られず解雇に踏み切る場合には、弁護士が面談の席に同席し、解雇の言い渡しをサポートいたします。
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