弁護士・木村哲也
代表弁護士
主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。
1 はじめに
病院・クリニックでは、患者が転倒・転落する事故がしばしば発生します。
今回のコラムでは、病院・クリニック内で患者が転倒・転落する事故が発生した場合に、病院・クリニックが(どのような場合に)損害賠償責任を負うのかについて、ご説明いたします。
2 損害賠償責任の法的根拠
患者が病院・クリニックに対して損害賠償請求をする場合の法的な根拠は、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)または債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)となります。
不法行為とは、故意または過失により他人の権利または法律上保護される利益を侵害した場合に、これにより生じた損害を賠償する責任を負うことを言います(民法709条)。
債務不履行とは、契約上の義務に違反した場合に、これにより生じた損害を賠償する責任を負うことを言います。
ただし、債務不履行において、義務者の責めに帰することができない事由による不履行の場合には、損害賠償責任を負いません(民法415条)。
3 施設・設備の安全性と損害賠償責任
ベッド・廊下・階段等の施設・設備は、適切に設置・保存される必要があります。
施設・設備の設置・保存に問題があり、転倒・転落事故が発生した場合には、病院・クリニックは損害賠償責任を負うこととなります。
例えば、廊下・階段が滑りやすくなっており、転落・転倒防止の措置が取られていないような事案では、病院・クリニックの損害賠償責任が認められやすいでしょう。
病院・クリニックとしては、施設・設備の安全性を定期的に点検し、危険であると判断したら、放置せずに修理・交換することが必須です。
また、器具等の使用上の注意を分かりやすく表示するなど、事故発生を防止するための措置を取ることも必要です。
4 医療従事者の注意義務と損害賠償責任
医師・看護師等の医療従事者が診療契約において負う注意義務に違反した場合には、病院・クリニックは損害賠償責任を負うこととなります。
問題となるのは、医療従事者が負う注意義務の内容です。
この点、裁判例では、一般的には患者に対する常時監視義務は否定されており、転倒・転落事故が発生したからといって、直ちに病院・クリニックが損害賠償責任を負うようなことにはなりません。
一方で、患者の具体的状況において転倒・転落事故の予見可能性がある場合には、社会通念上相当な注意義務を生じ、注意義務の違反がある場合には病院・クリニックは損害賠償責任を負うとするのが裁判例の考え方です。
例えば、当時89歳の入院患者(以下、「原告」と言います)に歩行時にふらつきが見られるなど、転倒の可能性が高いと評価され、車椅子を使用する際にも安全ベルトが装着され、トイレに行く際には職員が付きそうこととされ、頻尿の傾向があり一人で車椅子を操作してトイレに行ったり一人で歩いたりするなどの行動が把握されていた事案において、トイレで転倒事故が発生し病院の損害賠償責任が問われた裁判例があります。
裁判所は、原告が一人で車椅子を操作してトイレに行くなどの行動に出ることも想定し、その動向に十分に注意を払い、原告が一人でトイレに行ったり歩行したりしようとした場合には、速やかに介助できるように見守るべき注意義務があったとしたうえで、准看護師が他の看護師等がいない状態で患者への与薬を行いながら見守っていたところ、原告に対する十分な注意を行わず、原告が一人で車椅子を操作してトイレに行ったことに気付かず、原告の介助を行わなかったのであるから、上記の注意義務に違反したものと言わざるを得ない、と判断しました(熊本地方裁判所平成30年10月17日判決。損害賠償責任を肯定)。
これに対し、一人で歩行することに何の問題もない患者が、手すりの付いている安全に配慮された階段から転落したような場合には、病院・クリニックの損害賠償責任は認められにくいでしょう。
病院・クリニックが損害賠償責任を負わないようにするためには、患者の症状・状態を的確に把握し、その状況に応じた適切な措置をとることが求められます。
5 弁護士にご相談ください
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病院・クリニックにおける転倒・転落事故について、ご不明のことなどがありましたら、当事務所にご相談いただければと存じます。
記事作成弁護士:木村哲也
記事更新日:2024年4月30日
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