この記事を書いた弁護士

弁護士・荒居憲人
八戸シティ法律事務所 在籍

主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。

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1 育児・介護休業法とは

育児・介護休業法とは、正式な名称を「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」といいますが、労働者が仕事と家庭・子育ての両立を図るため、休業制度、労働時間の制限、事業主がとるべき施策等について定められた法律です。

持続可能な社会を作るためには、労働者がその希望に応じて、就労と子育て、あるいは就労と介護を両立できるようにするため、多様な働き方の選択を可能とする社会にすることが重要となります。
仕事と家庭を両立しやすい職場づくりは、雇用する側にとっても優秀な人材の確保・育成・定着につながるといったメリットがあります(参照:厚生労働省 育児・介護休業法のあらまし)。

このようなことを背景に、育児・介護休業法が制定、施行されています。

2 育児・介護休業法の注目すべき主要な制度について

育児・介護休業法には上記の趣旨を実現するために様々な制度が設けられていますが、まずは、注目すべき主要な制度についてご説明いたします。

(1)育児休業

育児休業とは、原則的に、労働者の養育する子が1歳に達するまで休業できる制度です。
子が保育所に入れないといった特に必要性が認められる場合には、最長で子が2歳に達するまで期間を延長することができます。

(2)産後パパ育休制度(出生時育児休業制度)

子の出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日まで休暇を取得できるというものであり、育児休業の簡易版として位置付けられます。
産後8週間の産後休業期間中の労働者はこの産後パパ育休制度を利用することができないため、制度が想定している対象者は主に男性となります。
もっとも、養子縁組をした場合など法律の要件を満たす場合には、女性であっても産後パパ育休制度の対象となります。

(3)子の看護休暇制度

子の看護休暇制度とは、子が負傷し又は疾病にかかった場合に、その子の世話または疾病の予防を図るために労働者に対して与えられる休暇のことをいいます。
1年度当たり5日が限度となりますが、対象となる子が2人以上の場合には10日を限度に取得が認められています。

(4)介護休業制度と介護休暇制度

労働者が要介護状態にある家族を介護するための休業制度となります。

3 これまでと今回の法改正のポイント・施行スケジュール

これまで、育児・介護休業法は、時代の流れに合わせて改正を重ねてきました。
例えば、育児休業を取得しやすい雇用環境整備や、個別の周知・意向確認の措置の義務化をはじめ、育児休業期間の延長、看護休暇の創設と期間の延長、時間外労働・深夜業の制限、産後パパ育休の新設、育児休業の分割取得といったものです。
さらに令和6年5月31日、改正された育児・介護休業法が公布されており、令和7年4月1日より段階的に施行されることになります。
その改正の内容は多岐にわたりますが、大まかに分類すると、①子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充、②育児休業の取得状況に関する公表義務の対象拡大、③介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化、の3つに整理することができます。

(1)子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充

1つ目はこれまでも改正が重ねられてきた分野となりますが、今回の改正は次の5点に整理することができます。

【1】
第1に、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に関する柔軟な働き方を実現するための措置を講じた上、事業主が選択した措置について、労働者に対する個別の周知・意向確認の措置が必要となります。
具体的には、事業主は、以下のうち2つ以上の措置を選択する必要があります。
始業時刻等の変更
テレワーク(10日/月)
保育施設の設置運営等
新たな休暇の付与(10日/年)
短時間勤務制度
労働者は、事業主が講じた措置の中から1つを選択して利用することができます。

【2】
第2に、所定外労働の制限の対象が拡大されます。
これまでは、労働者が3歳に満たない子を養育する場合には、請求によって労働の免除(残業免除)を受けることが可能でした。
これに関しては、改正によって小学校就学前までの子を養育する労働者が請求可能になりました。

【3】
第3に、3歳に満たない子を養育する労働者がテレワークを選択できるように措置を講じることが、事業主の努力義務となります。

【4】
第4に、子の看護休暇が見直されることになりました。
名称が「子の看護等休暇」と変更され、対象となる子が小学校入学前まであったところ、小学校3年生終了までに延長されることになります。
これまで、取得事由としては病気やケガ、予防接種や健康診断に限定されていましたが、厚生労働省令の改正によって対象が拡大され、感染症に伴う学級閉鎖や入学式、卒園式も子の看護等休暇を取得できるようになりました。
子の看護等休暇を労使協定の締結により除外できる労働者の要件についても、さらに厳しい要件となりました。

【5】
第5に、妊娠・出産の申出時や子が3歳になる前に、労働者の仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が事業主に義務付けられます。

以上のように、制度の多様な変更によって、子の年齢に応じた柔軟な働き方の実現が企図されています。

(2)育児休業の取得状況に関する公表義務の対象拡大

2つ目の大きな改正点ですが、これまでは従業員数1000人超の企業に育児休業等の取得の状況を公表することが義務付けられていましたが、改正法により、従業員数300人超の企業に公表が義務付けられることになりました。

(3)介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化

3つ目の大きな改正点は、優秀な人材が介護を理由に離職することを防止するために支援制度が強化された点となりますが、具体的な内容は次のとおりとなります。

介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置
介護に直面する前の早い段階(40歳等)での両立支援制度等に関する情報提供
仕事と介護の両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備
要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワークを選択できるよう事業主への努力義務
介護休暇について、引き続き雇用された期間が6か月未満の労働者を労使協定に基づき除外する仕組みを廃止

4 今回の育児・介護休業法改正において対応すべき実務上のポイント

今回の法改正により対応すべきポイントは、大きく分けて以下のとおりとなります。

まず、労使協定の見直しが必要となる場合があります。
子の看護等休暇に関して、労使協定の締結によって除外できる労働者の範囲が変更されました。
この除外要件に関し、労使協定が改正法に適合するように見直す必要があるかどうか、確認することになります。

また、3歳未満の子を養育する労働者に対しテレワークを認める努力義務や、3歳から就学前の子を養育する労働者に対する始業時刻の変更や保育施設の設置運営、新たな休暇の付与等の措置について、就業規則において定めるかどうか、検討する必要があります。

5 弁護士にご相談ください

今回の育児・介護休業法の改正によって、労使協定の見直しや就業規則の改定等、企業経営上の対応を求められることがあります。
この点についてご心配・ご不安のある企業様がいらっしゃいましたら、当事務所の弁護士にご相談ください。

記事作成弁護士:荒居憲人
記事更新日:2024年10月7日

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