弁護士・山口龍介
八戸シティ法律事務所 所長

主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。

弁護士のプロフィール紹介はこちら

1 はじめに

「うつ病」は多くの人がかかる代表的な精神疾患で、社員が発症することも決して珍しくはありません。
うつ病で見られる基本的な症状には、以下のようなものがあります。

【うつ病のよくある症状】
気分がひどく沈む、意欲・関心がなくなる、理由がないのに強い不安を感じる、イライラしやすくなる、何事にも興味がわかず楽しくない、思考力や集中力が低下、判断力が鈍る、
疲れやすくなる、元気がない(だるい)、根拠なく自分を責める、自分は価値がないと感じる、自死をほのめかす。

これらの症状からも分かるように、社員がうつ病にかかると、通常業務に著しい支障が出たり、遅刻や欠勤を繰り返したり、長期間の休職が必要となったりしますので、業務の肩代わりをすることになる他の社員を含めて、会社にとっては、大きな負担が生じます。
そのため、会社が、うつ病の社員をできるだけ早い段階で辞めさせたい/辞めてもらいたい(代わりに新しい人を採用したい)と考えることは、けっして非難されることではないでしょう。
とはいえ、うつ病の社員に対する対応を誤ると、賠償請求を受けてしまったり、法令違反を問われてしまったりするなど、重大なリスクに発展してしまうことがあります。
そこで、このコラムでは、うつ病の社員を辞めさせることはできる?という疑問にお答えすることをメインに、うつ病の社員に対して会社がとるべき対応と注意点について、解説いたします。

2 うつ病の社員に対する会社の対応と注意点

(1)社員にうつ病の兆候が認められた場合の対応と注意点

社員がうつ病になったときの兆候としては、次のようなものが考えられます。

〇体調不良を理由に遅刻や欠勤が増える。
〇仕事が滞る。
〇口数が少なくなる。
〇表情や顔色がさえない。
〇様々な身体の不調を訴える。
〇食事量が少なくなる。
〇自分を卑下し、「申し訳ない」といった発言、動作が見られる。
〇辞職をほのめかす。

このようなうつ病の兆候が認められた場合、まずは、上司等が個室を確保して、本人の話をじっくりと聴くことが大切です。
また、社員の現状や業務に支障が生じていることを説明することも必要です。
そのうえで、社員にうつ病が疑われる場合には、躊躇せず、産業医等への相談あるいは外部の医療機関での受診を勧めるべきでしょう。
ここでのポイントは、「無理をさせない、放置しない」ということです。

もし、社員が医療機関での受診を渋るようであれば、受診命令を行うことも検討します。
受診を促し、さらに命じることは安全配慮義務を負っている会社として可能ではありますが、その社員のプライバシーに十分配慮して、産業医等の意見を聞きながら進めることは必要です。
うつ病などの精神疾患に関わる問題は社員のプライバシーにも深く関わり、受診命令によって人格を否定されたと感じ反発されることもあり得るため、受診命令はあくまでも最終手段と考えるべきでしょう。
すなわち、社員にうつ病が疑われる場合、すぐに受診命令を出すのではなく、まずは受診を促し、それに応じない場合に受診命令を出すという二段階で対応すべきです。

そして、受診命令については、就業規則に根拠を明示しておく必要があります。
「欠勤、遅刻、早退等により社員の健康状態に問題があると認められる場合は、会社は社員に対し産業医等の診察を受けることを命じることがある。」「会社は、社員に対し、産業医または会社の指定する医師の診断を受診するよう命じることがある。」といった規定となります。

なお、裁判例では、就業規則に受診命令に関する規定がなくとも、専門医の診断を受けるように求めることが合理的かつ相当な理由のある措置である場合には、受診命令を発令することができると判断したものはあります。
しかし、業務命令としての確実性を期すためには、就業規則に根拠規定を設けるべきです。

また、社員が受診命令に従わない場合ですが、この時は、業務命令に違反したことを理由として、懲戒処分を行うことも考えられます。
もっとも、懲戒処分を行う場合には、懲戒処分の内容が不相当に重くなりすぎないように配慮することが必要です。

(2)従業員がうつ病と診断された場合の対応

社員が医療機関を受診して、うつ病と診断された場合には、主治医や産業医の指示に従って、会社は、できる範囲での協力を行う必要が生じます。
その協力の内容は、主治医や産業医の意見・指示を尊重し、業務軽減・配置転換などを検討し、あるいは、就業規則の休職の規定(休業制度)に従って運用することとなります。
言うまでもありませんが、うつ病と診断された社員に対して、素人考えで激励することは、本人の自責感や絶望感を強めるために禁物です。

また、自責感などから、辞職の希望が出されることがあります。
この場合、もちろん退職届を受理しても構いませんが、回復するまで結論を先延ばしにするという対応を検討してもよいでしょう。

(3)休職制度の利用を促す

うつ病と診断された社員について、通常業務に支障が生じている場合には、そのことや他の社員に業務の負担が生じていることなどを丁寧に伝え、本人及び家族と十分話し合ったうえで休職させるべきです。
ここでのポイントも「無理をさせない、放置しない」ということです。
遅刻や欠勤を繰り返している場合でも同様です。

休職制度については、法律に定めはありませんが、休職命令を発するには、就業規則や労働協約等に休職制度を定める必要があります。
就業規則には、「精神の疾患により職務に耐えられないと会社が判断したときは、会社は休職を命じることができる。」、「なお、傷病については休職期間中の療養で治癒する蓋然性が高いものに限る。」などと定めておくことになります。

また、社員から、うつ病を理由に「今後〇か月間の自宅療養を要する」などと記載された診断書が提出された場合には、すぐに休職制度を利用させる必要があります。

(4)職場環境を見直す

社員のうつ病発症の原因が、会社の職場環境にある可能性もあります。
うつ病などのメンタルヘルスが問題となる職場環境は、次のような場合が多いです。
社員のうつ病の発症を受けて、会社の職場環境をチェックする必要はあるでしょう。
そして、もし、うつ病発症の原因が職場環境にあるとされた場合には、社員から賠償請求を受けてしまったり、会社の労働基準法違反を問われたりするリスクが出てきます。
さらなるうつ病を発症する社員を出さないためにも、速やかな是正措置が必要です。

〇多忙すぎる、暇すぎる
〇社員数が不足、余剰
〇競争力が激しく、強度の能力主義・過度なノルマ
〇失敗を報告できない、許されない
〇管理職が経験不足、教育不足
〇干渉しない、コミュニケーション不足
〇業務の役割分担や手順がはっきりしない
〇パワハラ、セクハラ、いじめがある

3 うつ病の社員に対する会社のNG対応とリスク

(1)うつ病と診断された段階

まず、社員から、うつ病を理由に「今後〇か月間の自宅療養を要する」などと記載された診断書が提出された場合、いくら忙しいからといって、うつ病の社員を引き続き無理に働かせるのは、完全にNGです。
無理に働かせたことで、うつ病の症状をさらに悪化させてしまった場合には、安全配慮義務違反が問われます。

また、うつ病の症状によって、通常業務に支障が生じている場合や、遅刻や欠勤を繰り返している場合に、すぐに解雇しようとしたり、休職制度があるのにその説明をせずに退職勧奨を行ったりすることもNGです。
この点については、後に解説します。

(2)休職中の段階

うつ病を理由に休職中の社員が療養に専念しているかどうかや、現在どのような状態にあるのかなどについては、会社としては気になるところでしょう。
この点で、うつ病を理由に休職中の社員に対して、報告義務を課すことが考えられます。
休職は社員の労務提供義務を傷病による就業不能という特別な事情に基づいて免除するものですから、内容が妥当なものである限り、報告義務を課すことは可能です。
逆に、過度な報告を求めたり、不必要な内容の報告を求めたりすることはNGです。

就業規則には、「私傷病により休職する社員は、休職期間中、原則として毎月、傷病等の状態及び医師の診断書等を添付して現況を報告しなければならない。なお、会社の指示があったときは休職中の社員は随時、同様の報告をしなければならない。」などと報告義務とその内容を定めておくことになります。

4 うつ病の社員を解雇することはできる?

(1)うつ病が業務上疾病とされる場合

労働基準法19条1項は、「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間・・・は、解雇してはならない」と規定しています。
つまり、うつ病が業務上疾病とされると、その療養中は解雇が出来ないので、会社が行った解雇(自然退職)は無効だということになります。
また、休業期間満了による解雇(自然退職)の時点で労災認定を受けていなかったとしても、のちに裁判において、その解雇(自然退職)が労基法19条1項の解雇制限に抵触し無効であると判断される可能性があります。

したがって、いまだ労災認定は受けていないものの労災申請している場合や、「うつ病は業務が原因だ」といったことを社員が述べている場合は、業務上疾病と判断される可能性がどの程度あるのか、うつ病発症の経緯、うつ病発症前の労働時間、業務上の肉体的・心理的負荷の有無、うつ病の既往歴などの調査・検討を行っておく必要があります。
そして、明確な私傷病でないかぎり、むやみに解雇せず、解雇する場合には、業務上疾病に準じた扱いをすべきでしょう。

CF)業務上疾病の場合の適法な解雇とは?
業務上の疾病により労務提供できない場合、必要な療養または療養に必要な費用を負担し(全額)、かつ療養のため労働できない期間の休業補償を行い(平均賃金の6割)、療養開始後3年を経た後に打切補償(平均賃金1200日分)を払って解雇手続きを行うこと(労基法75条1項、76条1項、81条1項)

(2)休職期間が満了した社員を解雇できるか?

私傷病としてのうつ病で休職し、休職期間が満了しても復職が困難である場合には、就業規則に基づいて、解雇または自然退職となります。
解雇より自然退職のほうが、解雇通知の発信やその到達が不要になる点で無用の紛争を回避することもできますし、解雇予告手当を支払う義務も生じませんので、会社によってはプラスといえます。
自然退職については、就業規則に、休職期間が満了した際、いまだ職場に復帰できない状態が続く場合には退職とする旨の定めがあれば、その定めをもって自動的に退職(自然退職)とすることは一応可能です。
しかし、あとで紹介する東芝事件のように、「労働災害で休業中に解雇されたから不当解雇だ」と主張されるリスクはあります。
また、医師が復職可能と診断している場合には、復職を認めずに退職扱いとしてしまうと、不当解雇となるおそれがあります。

(3)うつ病の症状により業務に支障がある社員を休職前や休職期間中に解雇できるか?

休職制度の適用のある社員であっても、うつ病が休職期間中に治癒しないことが客観的に明らかであれば、休職開始前に、あるいは休職期間中で満了前に、解雇できるのでしょうか?

休職制度が解雇猶予のための措置であることからすれば、そのような解雇も正当化されると解されています。
そのため、うつ病と診断された社員が、その症状により業務に支障がある場合で、その症状が業務に耐えられない程度のものであると客観的に判断できれば、会社は解雇をすることができます。

もっとも、その判断においては、事故等で重大な後遺障害が残った場合などと異なり、うつ病などの精神疾患については慎重さが求められます。
裁判例では、躁うつ病の社員を「休職したとしても良くなる見込みはない」として解雇したのに対して、裁判所は、「治療により回復する可能性がなかったということはできない」として、解雇の効力を否定したものがあります。
裁判になれば、「休職したとしても見込みがない」、「休職中においてもはや治癒する見込みがない」ということを証明する責任は会社が負うことになりますので、慎重に判断すべきということになります(医師の診断書は最低限必要です)。

なお、うつ病の兆候が認められる社員に対して医療機関での受診命令を出した場合において、社員が受診命令に従わない場合であっても、そのことだけで業務に支障が生じるとまではいえないことから、懲戒処分として即座に解雇することは避けるべきです。

5 うつ病の社員を退職勧奨で辞めさせることはできる?

うつ病を発症し、頻繁に欠勤している社員、復職できそうにない社員に対して、退職勧奨で辞めさせることはできるのでしょうか?
うつ病を理由とする退職勧奨は、業務の遂行に支障が生じている以上は、一応合理的な理由がないとはいえないですし、その手段が穏当なものである限りは、社員の自由な意思の形成を不当に妨げるものではありません。

ただし、会社に休職制度がある場合には、少なくとも制度の存在とその内容を伝え、これを利用するかどうかの判断を社員に委ねる必要はあるでしょう。
休職制度を説明せずに退職勧奨をした場合には、退職後に社員が、自由な意思ではなかったと主張して、退職の効力を争ってくることは十分に想定されます。

また、何度も退職を迫るなど、社員の自由意思を制約する形の退職勧奨は退職の強要です。
特にうつ病に対しては特別な配慮が必要であり、あとで、「強迫だ」、「心神耗弱だ」などと言われて、意思表示は無効だなどと主張されないよう、交渉の過程を逐一録音や書面に残すような用心深さは必要です。
退職についての熟慮期間を与えて、家族立会いのもとで、「退職の合意が成立しました」という対応をすれば、あとでトラブルになることは少ないと思われます。
なお、うつ病の社員に対し、執拗に退職勧奨を繰り返したりした場合には、うつ病の増悪を理由に別途損害賠償されるリスクがあるので、注意が必要です。

6 うつ病・メンタルヘルス不調で不当解雇が争われた裁判例

社員がうつ病を発症した場合に起こる様々なリスクとその対応について、裁判例を題材として解説いたします。

(1)東芝事件

【事案の概要】
過重な労働からうつ病を発症して休職したのに解雇されたのは不当だとして、東芝の元社員Xが、東芝に解雇無効、安全配慮義務違反を訴えた事件。
平成2年4月 技術職として東芝に入社。
平成12年4月 工場で液晶生産のライン立ち上げに携わる。同年12月頃から、帰宅時間が遅くなり、神経科クリニックを受診する等するようになる。
平成13年4月 精神障害(うつ病)を発症。
平成13年10月 休職
平成14年5月 クリニックから職場復帰可能との診断書を受け、復職を試みる。
⇒再度、長期欠勤するようになる。
平成16年6月 会社の産業医がXの主治医の見解を聞く。
⇒主治医の見解も、Xの意見も、復帰は不可能とのこと。
平成16年7月 会社→X 復職するよう説得を試みるも、Xは復職を拒む。
平成16年8月 会社→X 休職期間満了を理由とする解雇予告を行う。
平成16年9月 X→労基署 休業補償給付請求。
⇒不支給処分。その後、再審査請求を申し立てるも、棄却。
平成16年9月 会社→X 解雇。
【裁判の経過】
平成20年 一審の東京地裁:解雇無効と東芝側に約2800万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
双方が控訴。
平成21年 労災に関する行政事件判決、請求認容(労災を認定する)。
平成23年 二審の東京高裁:ここでも解雇無効とされたが、Xが在籍当時、精神科に通っていることを会社に告げていなかったことから、過失相殺として賠償額が減額。
Xは上告。
平成26年 最高裁:過失相殺を否定し、高裁に差し戻し。
平成28年 差戻審の東京高裁:差し戻し前の判決の倍以上となる約6000万円を支払うように命じる。
【リスクと対応】
①うつ病の従業員の業務軽減措置と人事異動
・会社としては、社員が自らの健康状態について積極的に、進んで申告してこないことを前提に労務管理すべきであり、また仮に何らかの不調のサインがあれば、それに適切に対応してうつ病が悪化しないようにする安全配慮が求められる。
・東芝事件の事実関係を見ると、明らかに不調と見られる社員をさらに働かせたところに問題を大きくした点があったと思われる。
・社員の様子を日常的に観察の上、変調を来している場合には、業務負荷を思い切って軽減する等の丁寧な労務管理も必要。
・また、最高裁は、業務上の疾病としてうつ病に罹患したと判断されるケースでは、本人の脆弱性や健康状態の不申告等について、会社の安全配慮義務違反の損害賠償を検討する上で、過失相殺や素因減額の余地はほとんどないことを明らかにしていることにも注意。
②医師による面接指導の実施、復職の判断における医師の診断の位置づけ
・安全衛生法上の義務、及び会社の安全配慮義務として、社員の健康を保持するために必要な措置に関し、医師の意見を聴かなければならず、その意見を勘案して、必要があると認めるときには業務軽減(就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少など)をしなければならないとされている。
・会社は医学的な知見を有していないため、主治医、産業医またはその他会社の指定医の医学的な知見を得ながら、復職の可否や復職のプログラムを検討すべきであるが、主治医は患者本人の意向に強く影響される傾向がある上、職場や仕事の状況を十分に理解しているとは限らないため、その意見のみに依拠することはリスクがある。
・客観的意見という意味で、主治医以外の医師からセカンドオピニオンを得ておくべきであり、そのようなセカンドオピニオンを得ることを法的に根拠づけるため、就業規則上で復職について規定する箇所に、会社指定医(産業医を含む)への受診義務とその判断を踏まえて復職を判断する旨を定めておくことが望ましい。
③その他、業務軽減措置と人事異動の注意点
・最高裁は、復職時に配転等の職務の負担軽減措置による雇用保障等の配慮をより強く求める判断をしている。
・最高裁の判断を踏まえると、少なくとも、職種の限定なく採用し、配転可能な部署をもつ一定以上の規模の会社は、リスク回避として、「原職復帰は困難でも現実に配置可能な軽減業務があり、本人が軽減業務での復帰を求める以上は、その業務に復帰させるべき」との傾向に従って、対応すべきであろう。

(2)日本ヒューレット・パッカード事件

【事案の概要】
社員Xは、被害妄想など何らかの精神的な不調により、実際には事実として存在しないのに、ある加害者団体から依頼を受けた専門業者や協力者から約3年間にわたり、盗撮や盗聴などによる日常生活を監視され、職場の同僚らを通じて嫌がらせ行為があり、そのために、自らの業務に支障が生じているとして、有給休暇を全て取得した後、約40日間にわたり欠勤を続けた。
これに対し、会社は、就業規則上の懲戒事由である諭旨解雇の懲戒解雇処分を行った。
この処分に対し、Xは、懲戒解雇処分は無効だとして、雇用契約上の地位を有することの確認、賃金の支払いを求めた。
【裁判の経過】
平成22年6月 一審の東京地裁:Xが欠勤を継続したことは、就業規則上の「正当な理由なしに無断欠勤引き続き14日以上に及びとき」に該当するとし、欠勤が続いたことは、職場放棄に陥っており、債務不履行の態様として悪質である等として、諭旨解雇処分を有効とした。
Xは控訴。
平成23年1月 控訴審の東京高裁:会社の就業規則では傷病による欠勤の際「やむを得ない事由により事前の届出ができない場合」に該当するということができるので、欠勤を継続したからといって直ちに正当な理由のない欠勤に該当するとはいえず、無断欠勤として取り扱うのは相当ではない、Xに対して職場復帰に向けて働きかけや休職を促すこと、欠勤を長期間継続した場合は懲戒処分の対象となることを告知するなどの対応をしていれば、Xは欠勤を継続することはなかったと認められるとして、懲戒事由は認められず、諭旨解雇処分を無効とした。
会社は上告。
平成24年4月 最高裁:会社は精神科医による健康診断を実施するなどした上で、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり、このような対応を採ることなく、直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨解雇処分をすることは、精神的な不調を抱える社員に対する会社の対応として適切なものとは言い難い、などとし、Xの欠勤は就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤には当たらないと解されるとして、諭旨解雇処分を無効とした。
【リスクと対応】
精神的な不調を理由として欠勤している社員に対する会社の対応が、配慮や適切性を欠くことを理由に、懲戒事由該当性が否定されている。
会社は、業務に起因するものではなく、私傷病とみられる場合であっても、懲戒処分を行う際は、慎重を期する必要がある。
本件では、会社は、まずは、懲戒処分を課す前に、健康診断を受診させ、その診断結果等に応じて、治療を勧めるとか、休職等の処分を検討すべきであったとし、健康診断制度や休職制度があるので、いきなり懲戒処分をするのではなく、そのような制度を利用して一定の配慮をすべきであったことを示している。
この最高裁判決が出たことにより、会社は、うつ病なのメンタルヘルス問題を抱える社員に対して、より慎重な対応が必要となってきている。

7 うつ病・メンタルヘルス問題に対する会社の事前対策

(1)就業規則の整備

これまで何度も「就業規則」という言葉が出てきたとおり、うつ病を発症した社員に対して、会社が適切な対応をするためには、休職制度を中心に就業規則が整備されていることが重要です。
特に、次の内容は、必須といえるでしょう。

〇受診命令
〇休職期間及び延長、通算規定
〇休職期間中の報告義務の有無及び内容
〇休職期間中の療養専念義務
〇休職期間中の賃金の取り扱い
〇復職に向けての手続
〇復職後の業務負荷の軽減措置に伴う降格及び賃金の減額
〇休職期間満了による退職

(2)ストレスチェックの実施、ラインケアの実施

ストレスチェックとは、質問票を対象者に配り、質問項目(ストレスの原因に関する質問項目、ストレスによる心身の自覚症状に関する質問項目、社員への周囲のサポートに関する質問項目)に記入してもらい、質問票の回答をもとにストレスの程度を評価するものです。
評価の結果から、医師による面接指導が必要かどうかの判断を行い、面接が必要になった場合は直接本人に通知が届く仕組みとなっています。
すなわち、評価の結果次第では、医師による面接指導(医師の受診)など適切な対応をする必要があります。
逆に言えば、これにより早期の段階で問題を発見することができるため、事前の対策として有用であるといえます。
なお、常時使用する社員が50人以上いる事業所では、毎年1回、この検査を全ての社員に対して実施することが義務付けられています。

また、ラインケアとは、社員と常に接している管理監督者が、社員の異変にいち早く気付き、個別指導、面談、職場環境の改善を通じてストレスの軽減等に適切に対応することをいいます。
うつ病は、本人も気づかぬうちに進行している場合もあり、ラインケアはとても重要といえます。
上司等が部下の心身の状態を観察する場合、普段の部下と比較して、話し方や態度が普段と違うと感じたら、気分や体調が悪くないのかと聞いてみて、それによって異変があれば、医療機関への受診を勧めて、人事労務にも相談しておくといった対応が考えられます。

(3)労働時間の管理

長時間・過重労働がうつ病、メンタルヘルス不調の一つの大きな要因とされているので、社員の労働時間を適切に管理することが重要です。
判例は、会社は従業員が心身の健康を損なうことがないよう労働時間を適正に把握して、その健康に配慮すべき義務があることを明らかにしています。
また、厚労省が、労働時間の適正な管理を促進するため、基準を策定しています(「労働時間の適切な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」)ので参考にするとよいでしょう。

加えて、安衛法66条の8では、時間外または休日労働が1か月当たり100時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる社員に対し、会社は、その社員の申し出を受けて、医師による面接指導を行わなければならないとされています。
裁判例では、月100時間程度の長時間労働の下で発生した出来事は、心理的負荷が強いとされ、精神疾患との間の因果関係が認められやすいと判断されています。
また、労働局・労基署の重点監督(立入調査)の対象は、「月80時間超の残業が疑われるすべての事業所」とされています。
そのため、時間外労働は、1か月に80時間を超えないように抑制すべきといえます。

8 弁護士にご相談ください

最近の裁判例では、うつ病の発症について、会社の責任が強く問われる傾向にあります。
また、社員がうつ病を発症した後の会社の対応のみならず、うつ病をはじめとするメンタルヘルス不調を生じさせないために会社が普段からどのような対策を講じていたかという点も追及されています。
そして、うつ病を発症した社員に対して、いくら通常業務に著しい支障が出ているとか、遅刻や欠勤を繰り返していたとしても、安易に解雇を選択するなど対応を誤ると、賠償請求を受けて、会社に重大な損害を与えかねません。
そこで、うつ病の社員については、弁護士と相談をしながら、法律や裁判例に基づく適切な対策・対応をすることをお勧めします。

社員がうつ病にならないようにするための事前の対策、社員がうつ病を発症してしまった場合の事後の対応については、当事務所の弁護士にご相談いただければと存じます。

記事作成弁護士:山口龍介
記事更新日:2024年11月22日

「当事務所」の弁護士へのお問い合わせ方法

当事務所では、地域の企業・法人様が抱える法的課題の解決のサポートに注力しております。
お困りの企業・法人様は、ぜひ一度、当事務所にご相談いただければと存じます。

・お問い合わせフォーム:こちらをご覧ください。

今すぐのお問い合わせは「TEL : 0120-146-111 」までお気軽にお問合せ下さい(通話料無料。受付時間:平日9:00〜17:00)。
上記のメールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
今すぐのお問い合わせは「0120-146-111」までお気軽にお問合せ下さい(通話料無料。受付時間:平日9:00〜17:00)。
上記のメールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

お役立ち記事一覧

労務問題
https://www.hachinohe-kigyohoumu.com/rodo/
業種別の法律相談
https://www.hachinohe-kigyohoumu.com/gyoshu/
対応業務
https://www.hachinohe-kigyohoumu.com/gyoumu/
弁護士費用
https://www.hachinohe-kigyohoumu.com/hiyo/

無料メールマガジン登録について

メールマガ登録
上記のバナーをクリックすると、メルマガ登録ページをご覧いただけます。