はじめに

雇い止めとは、契約社員やパート・アルバイトなど、有期労働契約を締結した従業員について、契約期間満了時に労働契約の更新をせず、労働契約を終了させることを言います。

雇い止めは、契約期間満了時に新たな労働契約を締結しないことを意味し、契約期間の途中に労働契約を解消する解雇とは異なります。
しかし、雇い止めについても、従業員の生活に大きな影響を与えることは同じであるため、解雇と同様、一定の制限があります。

雇い止め法理

雇い止めを制限する「雇い止め法理」というルールが存在します。
「雇い止め法理」とは、①契約上は有期労働契約であるものの、契約更新の手続がルーズであるために、実質的には契約期間の定めのない正社員と同視できる状態にある場合、②契約期間の定めのない正社員と同視することまではできないが、従業員が労働契約の更新を期待し、その期待が合理的であると認められる場合に適用されるものです。

上記①または②のいずれかに該当する場合には、従業員の雇い止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、従業員が労働契約の更新を求めれば、企業・法人は労働契約の更新を強制されることとなります。
これが「雇い止め法理」の具体的な内容です。
「雇い止め法理」は、従前から裁判例によって認められてきたものですが、平成25年4月の労働契約法の改正で法律上も明文化されています。

無期転換ルール

雇い止めに関連して、平成25年4月の労働契約法の改正で、「無期転換ルール」が設けられました。
「無期転換ルール」とは、有期労働契約が更新されて、通算5年を超えるときには、従業員が企業・法人に対して無期雇用(契約期間の定めのない労働契約)に転換するように要求する権利を認めるものです。

「無期転換ルール」は、平成25年4月1日以降の有期労働契約を対象としており、平成30年4月1日以降、無期転換の権利を持つ従業員が発生していることになります。
企業・法人としては、無期転換の権利を持つ従業員から無期雇用への転換を要求された場合には、これを拒否することができません。
企業・法人が無期雇用への転換を拒否した場合には、解雇と同じ扱いとなり、相当厳格な要件を満たさなければ、不当解雇とされてしまいます。

なお、無期転換の権利を事前に放棄させることや、権利を行使する期間を就業規則で制限することなどは、法律上許されませんので、ご注意ください。

雇い止めをめぐるトラブルの防止策

雇い止めが不当と判断された場合には、雇い止めが無効とされて、賃金や慰謝料など高額の金銭支払が命じられるおそれがあります。
また、「無期転換ルール」への対応も必要です。
雇い止めをめぐるトラブルの防止策としては、次のようなものが考えられます。

雇用契約書・労働条件通知書による明示

企業・法人としては、有期労働契約を締結する際には、更新の有無について、「自動更新とする」、「更新する場合がある」、「更新しない」などを明示する必要があります。
そして、「更新しない場合がある」とする場合には、例えば、「勤務の成績や態度によって判断する」、「契約期間満了時の業務量によって判断する」などの基準を明示するべきです。

これらの事項については、雇用契約書・労働条件通知書によって、書面で通知するのがよいでしょう。
更新に関するルールを明文化しておくことが、無意識のうちに「雇い止め法理」や「無期転換ルール」の適用対象とならないための重要な対策となります。
また、更新の有無に関する労使間の認識の違いから、トラブルになるような事態を防ぐことができます。

就業規則の整備

契約社員やパート・アルバイトなど、正社員とは異なるルールが適用される従業員については、正社員用の就業規則とは別途、契約社員用やパート用・アルバイト用の就業規則を整備するべきです。
そして、雇い止めとの関係では、契約社員用やパート用・アルバイト用の就業規則において、労働契約の更新の有無、更新の基準、更新後の条件変更などに関する事項を定めることが必要です。

また、「無期転換ルール」によって無期雇用となった従業員用の就業規則を整備することも重要です。
「無期転換ルール」は、基本的には期間の定めだけを変更するものであり、別段の定めがなければ、業務内容・就業場所・労働時間・賃金などの労働条件は、有期労働契約の時と同一となります。
逆に、無期転換の従業員用の就業規則を整備し、労働条件に関する別段の定めを置くことで、無期転換の従業員の労働条件を個別に設定することが可能です。

無期転換の従業員の労働条件は、有期労働契約の従業員や正社員との業務内容等の違いに応じて、適切な内容を設定しなければ、処遇に関する不均衡が生じるおそれがあります。
さらに、就業規則に設ける別段の定めとして、無期転換の従業員に関する定年の規定を置かなければ、無期限で雇用を継続することが必要となりますので、注意が必要です。

契約期間満了時・契約更新時の対応

無意識のうちに「雇い止め法理」や「無期転換ルール」の適用対象とならないためには、契約期間満了時の更新の有無について、個別に判断・対応していくことが必要です。
契約更新の手続がルーズであるために、何となく労働契約が更新されていくような実態ですと、不測の事態を招くことが考えられます。
契約を更新するのであれば、契約期間満了時に新たに雇用契約書を取り交わすなど、適正な運用にしていくのがよいでしょう。

また、有期労働契約が3回以上更新されているか、1年を超えて継続雇用されている従業員の雇い止めをする場合には、契約期間満了の30日以上前に、雇い止めの予告をする必要があります。
雇い止めを行う場合には、早めにその従業員に契約更新をしない旨を伝え、雇い止めの理由を説明するようにしましょう。雇い止めの理由としては、「契約を更新しないことが合意されている」、「更新回数の上限が設けられている」、「担当業務が終了または中止となった」などがあります。

従業員から雇い止めの理由について証明書を請求された場合には、企業・法人としては証明書を交付する必要があります。
従業員からの請求がなくても、雇い止めを行ったこととその理由を明確にするためには、雇い止めの理由を記載した通知書を交付する運用とするべきでしょう。

雇い止め関連の書式

雇い止めを含む問題社員対応に活用できる書式を用意しておりますので、次のコラム記事をご参照ください。

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弁護士にご相談ください

以上のように、有期労働契約の従業員の雇い止めに関しては、注意すべきポイントが多々あります。
有期労働契約の従業員の労務問題については、企業法務に精通した弁護士にご相談いただくのがよいでしょう。

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