はじめに
企業・法人が直面する損害賠償の問題として、会社法関係に基づくものがあります。
このページでは、会社法350条に基づく損害賠償、会社法423条に基づく損害賠償、会社法429条に基づく損害賠償の問題について、ご説明させていただきます。
会社法350条に基づく損害賠償
会社法350条では、会社は、代表取締役がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負うものとされています。
代表取締役は会社を代表する者であるため、代表取締役の行為は会社の行為ととらえられているのです。
会社法350条に基づく損害賠償は、代表取締役の行為が不法行為(民法709条)に当たることが必要であり、代表取締役に故意または過失(不注意)があることが要件となります。
会社法350条に基づく損害賠償が問題となる事案には、様々なものがありますが、中小企業が直面することが多い例として、代表取締役の行為が労働災害(労災)の発生原因であるとか、代表取締役がハラスメントや労働災害の防止措置を取らなかったなどと主張し、従業員等が会社に対して損害賠償を請求することなどが考えられます。
会社法423条に基づく損害賠償
会社法423条では、取締役や監査役などの役員は、その任務を怠った(任務懈怠行為)ときは、会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負うものとされています。
役員の損害賠償義務が履行されない場合、6か月前から引き続き株式を有する株主は、会社に対し、役員の責任を追及する訴訟の提起を請求することができます。
そして、会社が請求の日から60日以内に責任追及の訴訟を提起しないときは、請求をした株主は、会社のために責任追及の訴訟(株主代表訴訟)を提起することができます。
役員の任務懈怠行為には、法令違反、経営判断の誤り、監視義務違反があります。
法令違反には、会社法、金融商品取引法などの株主の保護を目的とする法令のほかに、公益保護の規定(贈賄等の刑法犯、談合・損失補てん等の独禁法違反、食品衛生法等の取締法規違反)を含みます。
経営判断の誤りについては、事後的に結果責任を問うものであってはならず、行為当時の状況に照らして、合理的な情報収集・調査・検討などが行われたか、その状況と取締役に要求される能力水準に照らして不合理な判断がされなかったかを基準に任務懈怠行為に当たるかどうかを判断するべきであるとされています(経営判断の原則)。
監視義務については、取締役会を構成する取締役は、代表取締役の業務執行を監視し、必要があれば取締役会を招集し、あるいは招集することを求め、取締役会を通じて業務執行が適正に行われるようにする義務があるとされています。
また、代表取締役には、業務執行の一環として、会社の損害を防止する内部統制システムを整備する義務があり、他の取締役には、会社の内部統制システムの整備と運用が適切に行われているかどうかを監視する義務があるとされています。
会社法429条に基づく損害賠償
会社法429条では、取締役や監査役などの役員がその職務を行うについて悪意(認識していたこと)または重大な過失(悪意と同等の重い不注意)があったときは、その役員は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負うものとされています。
会社法429条に基づく損害賠償についても、会社法423条と同様に役員がその任務を怠った(任務懈怠行為)ことが要件となります。
そして、役員が任務懈怠行為について悪意(自分の行っていることが任務懈怠行為であることを認識していること)または重大な過失(悪意と同等の重い不注意により任務懈怠行為を行ったこと)があったことが要件とされていますが、一定の行為(株式発行資料、計算書類、登記、事業報告等に虚偽の記載があること)については、役員が無過失を立証しない限り、損害賠償の責任を免れないものとされています。
会社法429条による賠償責任の対象となる責任は、会社の損害の有無にかかわらず第三者が直接被る直接損害と、会社が損害を被ることにより第三者が間接的に被る間接損害の両方が含まれると考えられています。
会社法429条の「第三者」は、取引債権者がよくある例です。
また、直接損害を被った株主も「第三者」に含まれると考えられますが、間接損害(役員の任務懈怠行為により会社が損害を被った場合、株主も会社価値の毀損により間接的に損害を被ったと言えます)を被った株主は会社法423条の枠組みによる損害回復を図るべきであり、会社法429条に基づく損害賠償を請求することはできないとする見解が多数と言われています。
会社法429条に基づく損害賠償が問題となる事案には、様々なものがありますが、中小企業が直面することが多い例として、残業代問題について取締役や監査役がその職責としての労働基準法等の遵守を怠ったとか、ハラスメントや労働災害について代表取締役がその職責としての有効な防止対策を怠ったなどと主張し、従業員等が会社に加えて役員個人に対して損害賠償を請求することなどが考えられます。
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