はじめに
独占禁止法は、正式名称を「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」という法律であり、私的独占、不当な取引制限および不公正な取引方法を禁止し、公正かつ自由な競争を促進することなどを目的とするものです。
独占禁止法に違反した事業者および事業団体は、被害者に対し、損害賠償の責任を負うこととなります。
このページでは、独占禁止法に基づく損害賠償の問題について、ご説明させていただきます。
独占禁止法の規制対象
私的独占
私的独占とは、事業者が他の事業者の事業活動を排除し、または支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することを言います。
事業者は、私的独占をしてはならないと定められています。
不当な取引制限
不当な取引制限とは、事業者が他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、もしくは引き上げ、または数量、技術、製品、設備もしくは取引の相手方を制限するなど、相互にその事業活動を拘束し、または遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することを言います。
カルテルや入札談合などの行為がその典型例です。
事業者は、不当な取引制限をしてはならないと定められています。
不公正な取引方法
不公正な取引方法とは、以下の表のいずれかに該当する行為を言います。
事業者は、不公正な取引方法を用いてはならないと定められています。
一
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正当な理由がないのに、競争者と共同して、次のいずれかに該当する行為をすること。 | |
イ | ある事業者に対し、供給を拒絶し、または供給に係る商品もしくは役務の数量もしくは内容を制限すること。 | |
ロ | 他の事業者に、ある事業者に対する供給を拒絶させ、または供給に係る商品もしくは役務の数量もしくは内容を制限させること。 | |
二
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不当に、地域または相手方により差別的な対価をもって、商品または役務を継続して供給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの。 | |
三
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正当な理由がないのに、商品または役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの。 | |
四
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自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、次のいずれかに掲げる拘束の条件を付けて、当該商品を供給すること。 | |
イ | 相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。 | |
ロ | 相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させることその他相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させること。 | |
五
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自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。 | |
イ | 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ)に対して、当該取引に係る商品または役務以外の商品または役務を購入させること。 | |
ロ | 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。 | |
ハ | 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、もしくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、もしくは変更し、または取引を実施すること。 | |
六
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以上に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であって、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの。 | |
イ | 不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと。 | |
ロ | 不当な対価をもって取引すること。 | |
ハ | 不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、または強制すること。 | |
ニ | 相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもって取引すること。 | |
ホ | 自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。 | |
ヘ | 自己または自己が株主もしくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害し、または当該事業者が会社である場合において、その会社の株主もしくは役員をその会社の不利益となる行為をするように、不当に誘引し、唆し、もしくは強制すること。 |
排除措置命令
公正取引委員会は、独占禁止法に違反する行為をした事業者または事業者団体に対し、排除措置命令を発することができます。
排除措置とは、違反行為の差止など違反行為の排除に必要な措置のことであり、排除措置命令に加えて、事業者または事業者団体に対して課徴金の納付が命じられます。
排除措置命令等に不服の事業者または事業者団体は、公正取引委員会を相手方として、取消訴訟を提起することができます。
この訴訟は、東京地方裁判所の専属管轄とされています。
損害賠償請求
独占禁止法25条1項では、独占禁止法に違反した事業者および事業者団体は、被害者に対し、損害賠償の責任を負うと定めています。
そして、同条2項では、事業者および事業者団体は、故意または過失がなかったことを証明して、損害賠償の責任を免れることができないと定めています(無過失責任)。
ただし、独占禁止法25条による損害賠償請求は、公正取引委員会の排除措置命令が確定した後でなければ、裁判上主張することができないと定められています(独占禁止法26条1項)。
つまり、無過失責任による損害賠償を請求するためには、独占禁止法違反の事実が公的に確認されることが要件となるのです。
一方で、公正取引委員会の排除措置命令が確定する前であっても、債務不履行(民法415条。債務を履行しないこと)または不法行為(民法709条。故意または過失によって他人の権利・利益を侵害すること)に基づく損害賠償請求を提起することは可能です。
ただし、債務不履行または不法行為を根拠として損害賠償請求をする場合には、事業者または事業者団体に故意または過失があることが要件となります(過失責任)。
損害額の立証
独占禁止法に基づく損害賠償では、独占禁止法25条を根拠とする訴訟においても、損害額の立証は被害者側において行わなければなりません。
この場合、裁判所は、公正取引委員会に対し、独占禁止法の違反行為によって生じた損害の額について、意見を求めることができるとされています(独占禁止法84条1項)。
また、独占禁止法の違反行為によって生じた損害の額については、立証が困難なことが多いため、民事訴訟法248条による損害額の認定が行われる可能性があると考えられます。
民事訴訟法248条では、「損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる」と定められています。
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