はじめに

近年では、企業・法人に対して理不尽な要求や嫌がらせを行うモンスタークレーマーが増加しています。
不当・悪質なクレームに対しては、毅然とした態度で要求を拒絶することはもちろんですが、脅迫や業務妨害などの度を超えたモンスタークレーマーに対しては、法的措置を検討すべき場面もあります。

民事の法的措置

度を超えた不当・悪質なクレームに対する民事上の法的措置として、弁護士にクレーム対応をご依頼いただいたうえで、対応窓口を弁護士に移管することが考えられます。
弁護士に対応窓口を移管して、弁護士からモンスタークレーマーに対して警告状を送付するなどの対応を取ることで、不当・悪質なクレームが収束に向かうことも多いです。

また、民事の法的措置としては、仮処分があります。
仮処分とは、モンスタークレーマーが脅迫や業務妨害などの加害行為に出た場合に、裁判所に申立てをして、モンスタークレーマーに対する加害行為の禁止命令を出してもらうものです。
仮処分の手続を講じれば、モンスタークレーマーの加害行為が収束するケースがほとんどです。

さらに、モンスタークレーマーに対して訴訟(裁判)を提起することも、民事の法的措置として挙げられます。
モンスタークレーマーによる脅迫や業務妨害などの行為が企業・法人に実害を及ぼしている場合には、モンスタークレーマーに対して損害賠償を請求する訴訟を提起することが考えられます。
しかし、企業・法人から損害賠償を請求する訴訟では、モンスタークレーマーの行為や企業・法人が被った損害について、企業・法人の側で具体的に主張・立証を行う必要があります。
実際の損害賠償請求訴訟では、この主張・立証が困難を伴うケースも多く、安易に損害賠償請求訴訟を提起することは、敗訴のリスクにつながります。

そこで、モンスタークレーマーに対する訴訟として選択されるのは、通常は債務不存在確認訴訟という訴訟です。
債務不存在確認訴訟とは、「モンスタークレーマーの要求に応じる義務がない」ということを裁判所に確認・確定してもらう訴訟のことです。
債務不存在確認訴訟であれば、企業・法人がモンスタークレーマーから要求を受けていることを主張・立証すれば足りるため、上記のような損害賠償請求訴訟よりも負担が少ないです。
企業・法人としては、モンスタークレーマーに対して損害賠償を請求したいわけではなく、その要求を拒絶して収束させれば足りるというのが通常と思われます。
モンスタークレーマーに対して訴訟を提起することは、企業・法人にとっては大きな決断となります。
どのような訴訟を提起すべきかについては、慎重にご判断いただく必要があります。

刑事の法的措置

モンスタークレーマーが脅迫、強要、業務妨害などの犯罪行為に及んだ場合には、刑事の法的措置として、刑事告訴を検討すべきケースもあります。
刑事告訴とは、捜査機関(警察)に対して、モンスタークレーマーの犯罪行為を訴え出て、処罰を求めることを言います。
刑事告訴は、処罰を求めるモンスタークレーマーの具体的な行為を記載した告訴状を作成し、証拠資料を添付して捜査機関(警察)に提出する形で行うのが通常です。

モンスタークレーマーが次のような行為をした場合には、犯罪行為に該当する可能性がありますので、事案によっては刑事告訴を検討するべきでしょう。

①脅迫罪
「殺してやる」、「店に火をつける」、「ネットで晒す」、「組(暴力団)の者を寄越す」など、害悪を告知する行為。
②強要罪
「土下座しろ」、「謝罪文を書け」、「こいつ(担当者)を辞めさせろ」など、脅迫や暴力を用いて、義務のないことをさせる行為。
③恐喝罪
「誠意を見せろ」、「慰謝料を払え」、「迷惑料をよこせ」など、脅迫や暴力を用いて、金品を脅し取る行為。
④威力業務妨害罪
大声で騒ぐ、恫喝する、壁や机を叩く・蹴るなどして、その場にいる人の意思を制圧し、業務を妨害する行為。
⑤不退去罪
「お引き取りください」などと伝えているのに、「要求を受け入れるまでは帰らない」などとして延々と居座る行為。

刑事告訴を行って、捜査機関(警察)が捜査に乗り出せば、モンスタークレーマーの犯罪行為が収束するケースが多いでしょう。
もっとも、刑事告訴をする際には、モンスタークレーマーの犯罪行為を裏付けるに足りるだけの証拠が必要ですし、刑事告訴をしたからといって、必ずしもモンスタークレーマーが処罰されるとは限りません。
また、刑事告訴を行った側も、捜査に対する協力など、大きな負担が伴います。
刑事告訴を行うまでの事案か否かについては、慎重に検討するべきでしょう。

弁護士にご相談ください

以上のように、度を超えたモンスタークレーマーに対しては、民事・刑事の様々な法的措置を講じることが考えられます。
もっとも、企業・法人としては、法的措置を講じるべき事案であるのかを正確に見極めたうえで、講じるべき法的措置の選択も慎重に検討していかなければなりません。
そして、法的措置に関する判断や手続の実行は、非常に複雑で専門性の高い事項となりますので、まずは法律の専門家である弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

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