この記事を書いた弁護士
弁護士・畠山賢次
八戸シティ法律事務所 在籍
主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。
1 待機時間(手待ち時間)とは
タクシーの乗務員や、店舗において店員が顧客を待っている時間、トラック運転手が荷主から貨物が持ち込まれるのを待機する時間のように、労働者が何らの作業を行っていないように見えるときでも、使用者から指示があれば何らかの業務をしなければならない時間(労働者が作業を行うために待機している時間)を、待機時間または手待ち時間といいます。
待機時間(手待ち時間)は、実際の労働をしている時間ではない一方で、休憩時間と異なり、労働者が労働から解放された自由な時間ではありません。
待機時間(手待ち時間)が「労働時間」に該当する場合には、待機時間(手待ち時間)についても給与や残業代の支払をしなければならず、また、労働時間規制の対象にもなってきます。
そのため、この待機時間(手待ち時間)が、労働基準法上の「労働時間」に該当するのかが問題となります。
2 労働時間とは
労働基準法上の「労働時間」とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいうものと考えられています。
そして、「労働時間」に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めにより決められるものではなく、労働者の行為が、使用者の指揮命令下に置かれたものと客観的に評価することができるか否か、という実質的な観点から判断することとなります。
3 待機時間(手待ち時間)の労働時間該当性
待機時間(手待ち時間)の労働時間該当性は、実際の労働者の行動等を実質的にお聞きした上で判断する必要がありますが、原則として「労働時間」に該当すると考えるべき場合の方が多いと考えられます。
これは、一定の場所で顧客等が来たらすぐに対応するという「職務」と同視できる行為を、使用者の指揮命令のもとに行われていると評価されることが多く、完全に労働から解放されている休憩時間とは異なると評価される場合が多いからです。
以下では、待機時間(手待ち時間)の労働時間該当性に関して争われた裁判例を、いくつかご紹介させていただきます。
4 待機時間(手待ち時間)に関する残業代請求の裁判例
①大虎運輸事件:大阪地方裁判所平成18年6月15日判決
トラック運転手が、目的地で荷下ろし作業が終わった後、次の業務の指示を待ち、待機する時間等が労働時間に該当するか否かが争われました。
この事案では、運転手が再送先での作業が終わった後、次の仕事が入るまで自由に過ごすことができ、その間、食事の際には飲酒することもでき、かつ、パチンコをすることもできたという事情や、仮に、会社から突然の指示がきても、これに応じるか応じないかは、従業員の状況に基づき、従業員が応諾するかしないかを判断することが許されていたという事情がありました。
裁判所は、このような事情を考慮し、運転手が荷下ろし作業が終わった後、次の業務の指示を待ち待機する時間は、会社の指揮命令下に置かれていたとは評価することができず、労働時間には該当しないと判断しました。
②田口運送事件:横浜地方裁判所相模原支部平成26年4月24日判決
保冷しなければならない荷物を運送するトラック運転手の、出荷場や配送先における待機時間が労働時間に該当するか否かが争われました。
この事案では、運転手は1日2回配送を行っていましたが、
・集荷場で荷物を積む際は、荷物の積み込みを待つ出荷場のトラックの列に加わり、荷物を積み込んだ際に十分に冷却できるように、トラックの保冷器を稼働させたままトラックのエンジンを切って停車させて待機し、行列が前に進むごとに自分の運転するトラックを前進させなければならなかった。そのため、基本的にトラックから離れることができなかった。
・1回目の配送を終えて、2回目の荷物の伝票が出るまでの間、待機することとなるが、伝票が出てくる時間は必ずしも特定されておらず、伝票を渡されたら直ちに伝票を持って出荷場に移動しなければならなかった。
・出荷場においては、他の会社のトラックも待機しており、荷物が滞留し、他の会社に迷惑をかけたりすることがないよう、常に荷出し担当者に注目し、自分が担当する荷物が出てきたときは、遅滞なく自分のトラックに荷物を運ぶことが要求されていた。また、荷物をトラックに積み込んだ後も、荷物が乳製品や冷凍食品だったため、トラックの管理のほか、トラックの冷凍機等の温度管理を厳格に行うことが要求されていた。
・配送先には荷下ろしのための駐車スペースがないところもあり、そのような場合には、一旦近くの国道の側道等にトラックを駐車させ待機することになる。しかし、配送先からいつ連絡があるか分からない状態で、トラック内でトラックと荷物を継続的に管理保管し続けなければならないため、トラックを離れることもできず、携帯電話を手放すこともできない状態であった。
等の事情がありました。
裁判所は、このような事情を考慮し、出荷場や配送先における待機時間は、いずれも待ち時間が実作業時間にあたり、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができると評価しました。
そして、その待機時間中に従業員がトイレに行くとか、コンビニエンスストアに買い物に行くなどしてトラックを離れる時間があったとしても、休憩時間であると評価するのは相当ではないと判断し、待機時間が労働時間に該当することを認めました。
③中央タクシー事件:大分地方裁判所平成23年11月30日判決
タクシー運転手の、30分を超える会社の指定場所以外での客待ち待機時間を、会社が労働時間からカットしていたため、この待機時間が労働時間に該当するか否かが争われました。
この事案では、会社の指定する場所以外での運転手の客待ち待機時間を労働時間からカットすることについて、労働協約があったことなどが会社から主張されました。
裁判所は、
・労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の明示又は黙示の指揮命令ないし指揮監督のもとに置かれている時間をいう。そして、運転手がタクシーに乗車して客待ち待機をしている時間は、これが30分を超えるものであっても、その時間は客待ち待機をしている時間であることに変わりはなく、会社の具体的指揮命令があれば、直ちに運転手はその命令に従わなければならず、また、運転手は労働の提供ができる状態にあった。そのため、客待ち待機時間は労働時間に該当する。
・仮に、会社が30分を越える会社の指定場所以外での客待ち待機をしないように命令していたとしても、その命令に反した場合に、労働基準法上の労働時間でなくなるということはできない。
・運転手が会社の命令(30分を越える会社の指定場所以外での客待ち待機をしてはならない)に従わないことを原因として、運転手が、適正な手続を経て懲戒処分を受けることがあるとしても、この命令に従わないことから、直ちに30分を越える客待ち待機時間が、労働基準法上の労働時間に該当しないということはできない。
などと指摘したうえで、会社の指定する場所以外での運転手の客待ち待機時間が労働時間に該当することを認めました。
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記事作成弁護士:畠山賢次
記事更新日:2023年12月7日
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