弁護士・一戸皓樹
青森シティ法律事務所 在籍

主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。

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1 はじめに

企業には「採用の自由」があり、誰をどのような条件で採用するかについては、基本的に企業の自由と判断されています。
しかし、採用の条件が自由であるといっても、無制限ではありません。

採用面接において、何でもかんでも聞くことは許されておらず、応募者に聞いてはいけないとされる質問も存在します。

本コラムでは、どのような質問が聞いてはいけないものとされるのか、聞いてしまった場合にはどのようなリスクがあるのか、について解説いたします。

2 採用面接で聞いてはいけない質問とは?

(1)基本的な視点

採用面接で質問してよいか・悪いかの判断は、「業務の目的の達成に必要かどうか」が基本的な視点となります。

以下のような、≪応募者の能力等に無関係な事項≫≪応募者の思想信条等に関する事項≫は、基本的には業務の目的の達成に必要とはいえず、聞いてはいけません。

(2)応募者の能力等に無関係な事項

≪応募者の能力等に無関係な事項≫としては、
①本籍地、出身地、住居地
②性的指向・性自認
③住宅状況、生活環境・家庭環境
④家族の構成、家族の職業・職場・職歴、健康状態、資産の多寡
などがあげられます。

これらは、本人の意思や能力では容易に変更することが難しい事項であるうえ、業務を行うにあたっては基本的に関連性のない事項であり、聞いてはいけません。

ここで、聞くことの是非が問題となり得る事項として、「健康状態、既往歴」があります。
この点、応募者が業務を円滑に遂行できる健康状態・精神状態であることは、採用選考において重要な事項であるといえます。
そのため、「健康状態、既往歴」について質問をすることは、禁止されていません。

例えば、自動車運転や精密機械の操作などの業務を行う場合には、失神等の発作の有無を確認しておかなければ、事故により、応募者のみならず、取引先、他の従業員、企業に大きな損害を与えてしまう可能性があります。
そこで、このような場合には、情報取得が業務上必要である旨を伝えたうえで、本人の同意のもとに聞き出す必要があるでしょう(病歴など一定の「要配慮個人情報」は、個人情報保護法により、本人の同意等なく取得してはならないとされています)。

また、「うつ病などの精神疾患の病歴を採用面接で聞いてもよいか?」というご相談をいただくこともあります。
この点、精神疾患の治療を現在行っている場合であれば、症状によっては業務の停滞・遅延等が見込まれます。
それゆえ、現在の精神疾患の有無は、応募者の労働能力を正確に測るために、必要のある範囲内で質問することが認められると考えられます。
過去の病歴(既往歴)についても、再発による業務の停滞・遅延等の可能性や業務上の配慮の要否を検討する必要があるため、質問することは認められると考えられます。
なお、実際に質問をする場合には、情報取得が業務上必要である旨を伝えたうえで、本人の同意のもとに聞き出すようにしましょう。

一方で、HIV、B型肝炎、C型肝炎といった病歴の有無を聞くことは、不適切であると考えられます。
なぜなら、これらの病気に罹患していること・していたことが、業務に影響を与えることはほとんどないからです。
そして、これらの既往歴については、応募者も秘密にしておきたい情報といえるため、採用面接において聞くべき内容とはいえません。

(3)思想信条等に関する事項

≪思想信条等に関する事項≫としては、
①支持政党、信仰宗教
②これまでの労働組合への加入状況、活動歴
③購読新聞・購読雑誌、愛読書
④尊敬する人物
などがあげられます。

これらは、本来的には、応募者それぞれの自由であるべき事項です。
そして、これらの情報が業務を行うにあたって必要となることは、基本的にはありません。そのため、採用面接では聞いてはいけないということになります。

以上に挙げた事項の質問をすることは、たとえ応募者の採否に影響しない前提で尋ねたものであったとしても、応募者に不安や不信感を与えたり、不要な緊張感を与えたりすることになります。
そのため、採用面接においてそのような質問をすることは、基本的には控えるべきでしょう。

3 犯罪歴・破産歴について

犯罪歴・破産歴についても、センシティブな情報です。
犯罪歴・破産歴のある応募者としては、できるだけ外部の者に知られたくないでしょう。

一方で、犯罪歴は、応募者の属性を判断するために必要な情報であるといえるため、質問をすることは禁止されていません。
ただし、昔の犯罪歴をいたずらに詮索することは、避けるべきでしょう。

また、一定の職種については、犯罪歴・破産歴があることが法律上の欠格事由とされている場合があります。
そのような場合には、企業は採用選考時に犯罪歴・破産歴を調査しておくべきであるといえます。

例えば、公務員、医師は、一定の犯罪歴がある場合には、就職することができません。
その期間等については、国家公務員法・地方公務員法、医師法など個別の法律によって定められています。
また、例えば、税理士・司法書士・社会保険労務士などの士業、警備員は、破産歴がある場合(厳密には、「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない間」)は、その職に就くことができません。

このように、法律上欠格事由が定められている職種の採用面接においては、欠格事由に該当するかを確認するという目的の限度で、本人の同意のもとに犯罪歴・破産歴を確認するべきでしょう。

4 採用面接で聞いてはいけない質問をした場合のリスク

採用面接で聞いてはいけない質問をした場合には、法律上の罰則を受ける法的なリスクと企業価値低下という事実上のリスクを負うことになります。

法律上、労働者の募集を行う者は、本人の同意等がある場合を除き、「業務の目的の達成に必要な範囲内で」応募者の個人情報を収集できるとされています(職業安定法5条の5)。
これに違反した場合は、厚生労働大臣から業務運営の改善命令が出されることがあり(同法48条の3)、この命令に違反した場合は、違反行為者に6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の適用対象となります(同法65条)。

また、近年はSNSの普及により、即時かつ広範囲に情報が拡散される時代となりました。
それに伴い、「採用面接で違法な質問をされた」、「圧迫面接を受けた」、「あそこの系列企業はブラックだ」といった情報も拡散されやすくなっています。
このような情報によって、企業ブランドが傷つけられたり、マイナスイメージが付いたりする可能性もあります。

5 弁護士にご相談ください

以上のように、採用面接において、話題作りと思って聞いた質問によって、意外な結果を生んでしまうことがあります。
とはいえ、会社としてこれだけは聞いておきたいという事項もあるでしょう。
どうしても聞いてみたいけれどもリスクはないのか、どのように質問すればリスクなく聞けるのか。
このような不安がある経営者・採用担当の方は、当事務所の経験豊富な弁護士にご相談ください。

記事作成弁護士:一戸皓樹
記事更新日:2024年4月9日

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