弁護士・木村哲也
代表弁護士

主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。

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1 はじめに

スーパーマーケットやショッピングモールなどの店舗内で客の転倒事故が発生することがあります。
そして、客が転倒事故により大きな怪我をすることがあり、損害賠償をめぐるトラブルに発展するケースも見られます。

店舗内における転倒事故の原因は、段差、濡れた床、落ちていた商品など様々ですが、店舗側の損害賠償責任が問われることがあります。

2 損害賠償責任の法的根拠

店舗内で客が転倒したからといって、直ちに店舗側が損害賠償責任を負うわけではありません。
工作物責任(民法717条)、不法行為責任(民法709条)、債務不履行責任(民法415条)などが成立する場合に限り、店舗側は損害賠償責任を負います。

(1)工作物責任

工作物責任とは、土地の工作物の設置・保存に瑕疵があることにより他人に損害を与えた場合に、その工作物の管理者が損害賠償責任を負うものです(民法717条)。

店舗建物は、ここに言う「土地の工作物」に該当します。
「瑕疵」とは、通常有すべき安全性を欠いていることを言います。

(2)不法行為責任

不法行為責任とは、故意または過失により他人に損害を与えた場合に、損害賠償責任を負うものです(民法709条)。

店舗側は、店舗内の客の安全を配慮する義務が生じることがあります。
例えば、飲食店などで飲食物提供契約が成立していると認められる場合には、その契約に基づいて店舗内の客の安全を配慮する義務を負うと考えられます。
また、契約成立に至っていなくても、例えば、スーパーマーケットでは、商品を購入してもらうにあたり客を店舗内に誘引し、客に店舗内を歩きながら商品を見てもらうことにより購入を促すところ、店舗内の客の安全を配慮する義務を負うと考えられています。

このような義務に違反したことにより客に損害を与えた場合に、店舗側は損害賠償責任を負うのです。

(3)債務不履行責任

債務不履行責任とは、義務者がその義務の履行を怠ったことにより他人に損害を与えた場合に、損害賠償責任を負うものです(民法415条)。

上記(2)の店舗内の客の安全を配慮する義務の違反があり、それにより客に損害を与えた場合には、店舗側は損害賠償責任を負うこととなります。

3 損害賠償責任が肯定された裁判例

(1)東京地方裁判所令和3年7月28日判決

原告がスーパーマーケットに買い物に訪れた際、生鮮野菜売場の床が水浸しのまま放置されていたため足を滑らせて転倒し、左肘頭骨折の重傷を負いました。

裁判所は、原告が通常の買物客と同様の態様で買物をしていたにもかかわらず、買物客が特設平台に置かれたサニーレタスを取り出す際に水が垂れる状況が繰り返されることにより、床に水濡れが生じたことが原因となり本件事故が発生したものであると認定しました。
そして、裁判所は、水濡れの範囲が通常の歩行であっても転倒の危険が生じ得る広さに及んでいたと認めるのが相当であると認定しました。

そのうえで、裁判所は、店舗側としては、陳列場所周辺の床が、サニーレタスに付いた水が垂れることにより一定範囲で濡れることとなる可能性を認識していたと認められる一方、店舗側がその危険性を考慮して一定時間の間隔で清掃等の転倒防止のための対応をとっていた形跡がうかがわれないことからすると、店舗側は安全管理義務に違反したものであると判断し、店舗側の損害賠償責任を認めました。

一方で、裁判所は、原告にも、歩行中に自らの足元の状況に注意を払うべき義務があったと認定し、20%の過失相殺を認めました。

(2)東京地方裁判所令和2年11月13日判決

原告が食品等を販売する店舗内で買い物中、販売・宣伝用の掃除機が載せられていた台車のような台に足を取られて転倒し、上肢・下肢に後遺障害を残す重傷を負いました。

裁判所は、問題の台の設置場所付近を通る際には買物客が陳列棚の物品に目が行きやすいことや、問題の台の設置場所付近には十分な広さが確保されていなかったことなどを指摘し、店舗側において顧客が問題の台に接触等しないような場所に置いて顧客の身体の安全に配慮すべき注意義務があるのにこれを怠ったと認定し、店舗側の損害賠償責任を認めました。

一方で、裁判所は、原告としても、問題の台の視認状況について格別困難であったと認められる状況にはなく、足下を十分に注意することなく進んだなどと認定し、5割の過失相殺を認めました。

(3)岡山地方裁判所平成25年3月14日判決

ショッピングセンターに客として訪れた原告が、アイスクリーム売場前通路上に落ちていたアイスクリームに足を滑らせて転倒し、大腿骨骨折等の重傷を負いました。

裁判所は、転倒事故当日は多数の客がアイスクリームを買い求める一方で、売場の飲食スペースには十分な机・椅子がなく、売場でアイスクリームを購入した客が売場付近通路上でこれを食べ歩くなどし、その際に床面にアイスクリームの一部を落とし、これにより通路の床面が滑りやすくなることがあることは容易に予想されると認定しました。
そして、裁判所は、店舗側としては、客に対する安全管理上の義務として、売場付近に十分な飲食スペースを設けたうえで客に対しそこで飲食をするよう誘導したり、外部の清掃業者による清掃や店舗従業員による巡回を強化したりするなどして、売場付近の通路の床面にアイスクリームが落下した状況が生じないようにすべき義務を負っていたと認定しました。
そのうえで、裁判所は、店舗側がこのような義務を尽くしていないことは明らかであると認定し、店舗側の損害賠償責任を認めました。

一方で、裁判所は、原告としても、多数の客がアイスクリームを買い求める状況を認識しており、売場付近の通路上にアイスクリームの一部が落下して滑りやすくなっていることも予測できたと認定しました。
そして、裁判所は、原告にも、足元への注意を払うべきであったのにこれを怠った過失があると認定し、20%の過失相殺を認めました。

4 損害賠償責任が否定された裁判例

(1)東京高等裁判所令和3年8月4日判決

原告がスーパーマーケットに客として訪れた際、レジ前通路を歩行中にかぼちゃの天ぷらを踏んで転倒し、負傷する事故が発生しました。

裁判所は、レジ前通路は見通しが良く、天ぷらは縦13cm・横10cm程度の比較的大きなものであり、目視等により発見しやすい物であったのに対し、事故当時客から落下物の申告・苦情等はなかったことから、天ぷらの落下は事故に近接する時点であった可能性が高いと判断しました。

そして、裁判所は、レジ付近の通路は落下物による転倒事故が発生しやすい場所ではなく、これまでレジ付近で落下物による転倒事故が発生したことはなかったこと、他方で、店舗内が混み合う時間帯でも足もとの落下物を回避することは特に困難ではないことを指摘しました。

そのうえで、裁判所は、店舗側においてレジ前通路に天ぷらのような商品を利用客が落とすことは通常想定し難く、短時間でもレジ前通路に落下物を放置しないよう安全確認のための特段の措置を講じるべき法的義務があったとは認められないと判断し、店舗側の損害賠償責任を否定しました。

(2)東京地方裁判所平成25年7月18日判決

ドラッグストアに客として来店した原告が店舗出入口手前の段差で転倒し、負傷する事故が発生しました。

裁判所は、段差は約5cmのものであり、世間一般に存在する段差と比較して著しく大きいものとは言い難いと指摘しました。
また、裁判所は、段差を生じさせていた白色タイルと薬局出入口前のアスファルト舗装とは色彩を異にし、営業時間内であれば夜間でも薬局前の照度が確保されていたことから、通常の注意を払って歩行した場合には段差の存在を認識して歩行することが十分に可能であったと認定しました。

そのうえで、裁判所は、店舗側の安全配慮義務違反はなく、段差が通常有すべき安全性を欠いていたと認めることはできないとして、店舗側の損害賠償責任を否定しました。

5 過失相殺

店舗側の損害賠償責任が認められる場合であっても、上記「損害賠償責任が肯定された裁判例」のとおり、過失相殺が認められ損害賠償額が減額される例も少なくありません。

なぜなら、多くの場合、客としては、自ら注意をすることにより店舗内の落下物や段差等を発見し、危険を回避することができるからです。

なお、過失の割合については、転倒した客の属性(高齢者、幼児、若年者など)や現場の状況(落下物や段差等の視認のしやすさなど)により、大きく変わってくるものと考えられます。

6 転倒事故の防止対策

転倒事故を防止するための店舗側の対策としては、危険性のある箇所をあぶり出し、店舗従業員による定期的な確認等を徹底する必要があります。

また、このような安全対策を講じていることを証明するためにも、マニュアルを作成・保存することや、店舗内の確認状況を日報に記録しておくことが大切です。

7 弁護士にご相談ください

店舗内における転倒事故について、お困りのことがありましたら、当事務所の弁護士にご相談いただければと存じます。

記事作成弁護士:木村哲也
記事更新日:2024年6月3日

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