弁護士・木村哲也
代表弁護士

主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。

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1 はじめに

近時、小売業の企業様から、次のような相談をいただくことがございます。

「メーカーから、販売価格が一定額を下回らないように指示されている」
「メーカーが、商品をインターネットで安売りしないように言ってきている」
「メーカーから、インターネットで売るのであれば商品の供給を停止すると通告された」

このように販売価格・販売方法に条件を付けることは、独占禁止法に違反する可能性がありますので、注意が必要です。
今回のコラムでは、小売業・卸売業やメーカー向けの記事として、独占禁止法の問題となる再販売価格の拘束と販売方法の制限について、ご説明いたします。

2 再販売価格の拘束について

再販売価格の拘束とは、メーカー等が指定した価格で販売しない小売業者等に対し、卸価格を高くしたり、出荷を停止したりし、指定した価格を守らせることを言います。

再販売価格の拘束は、独占禁止法19条・2条9項4号により禁止されています。

再販売価格の拘束が行われるのは、小売業者等の値引き競争により価格が崩れ、ブランド価値が低下することを防止することが目的であることが多いです。

しかし、再販売価格の拘束が行われると、価格競争が阻害されることにより消費者が被害を受けることとなります。
つまり、消費者は、価格により販売店を選ぶということができず、本来ならば安く買えるはずの商品を高く買わなければならなくなるのです。

そのため、再販売価格の拘束は、独占禁止法により禁止されるのです。
ただし、書籍・雑誌・新聞・音楽CDなどの著作物については、例外として再販売価格の維持行為が許容されています。

なお、再販売価格の拘束は、「正当な理由」がある場合には違法とはされませんが、「正当な理由」があるとされるのは限定的な場合ですので(具体的には、再販売価格の拘束により競争が促進され、商品の需要の増大・消費者の利益の増進が図られるという例外的な場合などです)、慎重にご判断いただく必要があります。
「小売業者等の値引き競争により価格が崩れ、ブランド価値が低下することを防止する」というのは、「正当な理由」にはなりません。

3 販売方法の制限について

販売方法の制限は、インターネットによる販売を禁止することなどが典型的です。

販売方法の制限は、独占禁止法19条・2条9項6号ニにより禁止される拘束条件付取引(事業活動を不当に拘束する条件を付けて取引すること)に該当する可能性があります。
拘束条件付取引が規制されるのは、良質廉価な商品等を提供するという形で行われるべき競争が阻害されるからです。

この点、販売方法の制限については、商品の安全性の確保、品質の保持、商標の信用の維持等、商品の適切な販売のための合理的な理由が認められ、かつ、他の小売業者に対しても同等の条件が課せられている場合には、それ自体は独占禁止法上問題となるものではないと考えられます。

例えば、化粧品のカウンセリング販売を義務付けた事案において、最適な条件で化粧品を使用して美容効果を高めたいとの顧客の要求に応え、あるいは肌荒れ等の皮膚のトラブルを防ぐ配慮をするという目的であるから、一応の合理性があると考えられ独占禁止法が禁止する拘束条件付取引には当たらないとした裁判例(最高裁判所平成10年12月18日判決)があります。
また、調整が行われないままで販売されると性能の発揮が著しく阻害され、消費者に不利益を与える蓋然性が高い医療機器について、通信販売を禁止することは独占禁止法に違反する拘束条件付取引には当たらないと考えられます。

一方で、例えば、再販売価格の拘束を目的とする販売方法の制限や、安売りを行う小売業者等に対してのみ、販売方法の条件を遵守しないことを理由として商品の供給を禁止することなどは、違法と判断されます。
インターネットで安売りさせないために通信販売を禁止することは、独占禁止法に違反すると考えられます。

4 不当な再販売価格の拘束・販売方法の制限を受けた場合の対応

小売業者としては、メーカー等から不当な再販売価格の拘束・販売方法の制限を受けた場合には、まずは独占禁止法に違反することを指摘し、メーカー等に対して是正を申し入れることになるでしょう。

そして、メーカー等が是正に応じない場合には、小売業者としては、公正取引委員会に対し、独占禁止法に違反する事実を報告し、適当な措置をとるよう求めることができます(独占禁止法45条)。
また、差止請求(独占禁止法24条)や損害賠償請求(独占禁止法25条・26条)も可能です。

一方で、メーカー等が注意しなければならないのは、独占禁止法の違反に対するペナルティです。
まず、公正取引委員会から排除措置命令(独占禁止法20条。問題となる行為の差し止めなど)、課徴金納付命令(再販売価格の拘束について、独占禁止法20条の5)が発せられる可能性があります。
そして、排除措置命令に従わない場合には、罰則の適用を受けることもあります(独占禁止法90条3号)。

5 弁護士にご相談ください

再販売価格の拘束・販売方法の制限は、メーカー等が違法性を認識せずにやってしまっていると考えられる例が散見されます。
再販売価格の拘束・販売方法の制限についてご不明のことなどがありましたら、当事務所の弁護士にご相談いただければと存じます。

記事作成弁護士:木村哲也
記事更新日:2024年6月19日

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