この記事を書いた弁護士

弁護士・畠山賢次
八戸シティ法律事務所 在籍

主な取扱い分野は、労務問題(企業側)、契約書、債権回収、損害賠償、ネット誹謗中傷・風評被害対策・削除、クレーム対応、その他企業法務全般です。八戸市・青森市など青森県内全域の企業・法人様からのご相談・ご依頼への対応実績が多数ございます。

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1 はじめに

退職する従業員の中には、自分の退職後の生活ばかりを考え、業務の引き継ぎを軽視するような従業員もいます。
適切に引き継ぎが行わなかった場合、業務に支障が出てしまい、会社に重大な損害が生じるおそれも十分に考えられます。

以下では、まず、退職の法的ルールを確認し、引き継ぎをせずに退職した従業員に対する損害賠償請求の可否や、逆に会社が元従業員から請求を受けてしまう可能性があるケースについて、ご説明いたします。

2 退職の法的ルール

憲法22条1項では、国民の職業選択の自由を保障しており、選択する職業に就いて就労するために退職や転職をする自由も、保障されているものと考えられています。
他方で、民法や労働基準法では、労働契約における期間の定めがある場合と期間の定めがない場合に分けて、従業員の自発的な退職に関するルールを定めています。

(1)期間の定めがある場合

期間の満了によって労働契約が終了するのが原則です。
もっとも、期間満了後も労働契約が事実上継続すれば、同一の条件で労働契約が更新されたものと推定されます(民法629条1項)。

このように労働契約が継続している中で期間の途中で労働契約を解除するためには、原則として「やむを得ない事由」があるときに限られています(民法628条)。
もっとも、労働基準法137条では、一定の従業員を対象に、契約期間の初日から1年を経過した日以降は、従業員が使用者に対して申し出ることにより、いつでも退職を申し出ることができると定められています。

(2)期間の定めがない場合

従業員からの退職の申し出について、民法では、いつでも申入れをすることが可能であり、申入れの日から2週間を経過することによって労働契約が終了すると定めています。

3 損害賠償請求できる可能性があるケース

従業員が退職するにあたって、業務の引き継ぎをすることは労働契約上の義務となっていると考えられています。
そのため、従業員が一切引き継ぎを行わなかった場合には、使用者において、当該従業員に対して、損害賠償請求をすることができる可能性があります。

もっとも、会社が当該従業員に対して損害賠償請求をするにあたっては、“当該従業員が引き継ぎをしなかった”ということによって発生した具体的な損害及びその金額、引き継ぎをしなかったことが原因で発生した損害との因果関係を、会社側において立証する必要があります。

そのため、実際に損害賠償請求を検討するにあたっては、この点を慎重に判断する必要があると言えるでしょう。

4 損害賠償請求が困難なケース

従業員が一切業務の引き継ぎを行わなかった場合でも、引き継ぎをしなかったことによって具体的な損害が発生したとはいえないときや、引き継ぎをしなかったことが原因で発生した損害の額を算出することが困難であるようなときには、損害賠償請求をしたとしても認められないリスクがあります。

また、従業員が引き継ぎをしたもののこの引き継ぎが不十分であると考えられる場合、従業員において一応の引き継ぎを行っていることと、それが“不十分”であるか否かは、明確に線引きをするのが難しいと考えられます。
そのため、“不十分”の程度が一切引き継ぎを行っていない場合と同程度であると評価される場合や、悪質であると評価できる場合でなければ、損害賠償請求が認められるのは困難といわざるを得ないでしょう。

5 就業規則の規定よりも早く退職したいと言われた場合

以上のように、業務の引き継ぎを行わずに退職した社員に対する損害賠償請求というのは、容易なことではありません。

会社としては、適切に引き継ぎが行われるための対策として、退職届の提出時期について、民法とは異なる定めを設けることが考えられます。
具体的には、就業規則上、退職届の提出時期について、「退職の30日前までに提出しなければならない」といった規定を設けることが考えられます。
このような規定は、「退職する2週間前に退職の意思を表示すればよい」とされる民法の定めよりも、退職しようと考える従業員にとっては厳しい規定となる一方で、会社としては、このような規定により実質的に引き継ぎの期間を設けることができることとなります。

もっとも、このような就業規則の規定を設けたとしても、従業員から、就業規則の規定よりも早く退職したいと言われることもあり得ると思います。

この場合、就業規則の規定と、民法や労働基準法の規律とでは、どちらが優先されるのか、つまり、従業員から、2週間後に退職したいと言われたときに、会社がこれを断ることができるのかが問題となります。

この点に関しては、上記のような就業規則の規定があったとしても、民法や労働基準法の規律が優先されると考えられているため、従業員から就業規則の規定よりも早く退職したいと言われた場合、強制的に引き留めることは難しいでしょう。

6 退職する従業員から逆に請求を受ける事案

他方で、会社側において未払の給与や残業代がある場合や、退職金の規定があるのにもかかわらず退職金を支払わない場合など、労働基準法に違反するような行為を会社が行うような場合には、従業員側から未払賃金等の支払請求を受ける可能性があります。

また、退職を希望する従業員に対して、退職するのであれば損害賠償請求をするなどと脅したような場合には、上記の請求に加えて、損害賠償請求をされてしまうリスクがあります。

そのため、会社としては、業務の引き継ぎを行わずに退職しようとする従業員がいたからといって、民法や労働基準法などに違反するような報復行為と評価されるような行為は、厳に慎むべきでしょう。

7 弁護士にご相談ください

退職の意思を表示した従業員と会社との間でトラブルになることは少なくありません。
会社としては、就業規則等における業務の引き継ぎ規定の整備はもちろん、それを従業員に周知する必要があります。
また、従業員との間で信頼関係を結び、引き継ぎが円滑になされるように環境を整えておくのが重要になると言えるでしょう。

従業員の退職や、引き継ぎに関してトラブルを抱えている場合や、就業規則やその他の社内規定の整備に関してお悩みでしたら、ぜひ一度、当事務所の弁護士にご相談いただければと存じます。

記事作成弁護士:畠山賢次
記事更新日:2024年11月8日

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