1 介護福祉事業を取り巻く環境と法的リスク

介護福祉事業は、事業所と職員、さらに利用者とその家族といったように、複数の利害関係者が密接にかかわる環境で行われる事業です。
そのため、次に述べるように様々な法的リスクが潜在しています。
 

(1)介護上の事故によるリスク

利用者による転倒、転落、誤嚥といった不慮の事故が生じることにより、事業所側が損害賠償請求を受け、法的な責任を追及されるリスクがあります。
認知症の利用者が外出し、第三者に怪我を負わせるといった損害を発生させた場合に、その第三者から事業所に対する損害賠償請求がされることもあります。
さらに、近年では職員から利用者に対する虐待が発生することがあります。
虐待が発生した場合、問題となる職員はもちろんのこと、事業所も職員に対する監督上の法的責任を追及されることになります。
これらの訴訟を起こされた場合には、事業所の代表者、あるいは問題となる職員が裁判所に出頭する必要に迫られることもあり、業務外の多大な負担が発生することになります。

(2)クレーム対応によるリスク

利用者やその家族としては、日常生活上のほとんどが事業所の管理下に置かれますので、利用者の不測な動きによって生じた怪我といった些細なトラブルについて、事業所の責任であるとして激しいクレームを向けられることがあります。
このようなクレームは対応を誤ってしまうと、クレーム前の対応には事業所側に責任がない場合であっても、事後的なクレーム対応に問題があったとして、説明義務違反等を理由に損害賠償請求をされるリスクがあります。

(3)カスタマーハラスメントによるリスク

事業所に落ち度がある場合に正当なクレームを向けられる場合ではなく、利用者やその家族から過大な要求や理不尽な文句を言われることがあります。
これは正当なクレームとは異なり、事業経営に対する迷惑行為であり、顧客としての優位性を利用したカスタマーハラスメント(カスハラ)と言われるものです。
カスタマーハラスメント対策という観点からは、職員をいかに保護し、快適かつ安全な職場環境をどのように維持するかということが問題となります。
事業所が対策をとることなく、職場環境が害される事態を漫然と放置した場合には、職員の退職を招いたり、職員からの損害賠償請求など法的問題に発展したりすることがあります。
この点は次に述べる労務管理上のリスクと繋がる面もあります。

(4)職員に対する労務管理上のリスク

事業所の職員に対する法的責任のリスクについても考慮する必要があります。
例えば、上司から部下に対し何らかのハラスメントがあり、それが非常に悪質であり解雇を行うことになる場合には、その解雇の有効性をめぐって将来的に解雇した職員との法的紛争になるリスクがあります。
また、職員は介護という肉体労働に携わるため、職員自身の転倒による負傷といった労働災害が発生することがあり、この場合も職員と事業所との間で法的紛争になるリスクがあります。
職員との法的紛争になった場合にも、本来の業務外の負担が生じることになり、経営上の支障が生じることになります。

(5)人材流出のリスク

介護福祉事業は、身体が不自由な利用者や認知症といった精神疾患を抱えた利用者の日常生活上の世話をすることが主な業務内容となります。
このような業務の性質や、業界全体を取り巻く人材不足の影響により、1人の職員に対する負担が大きいものとなり、長時間労働が常態化する事態となっています。
また、前述いたしましたように、介護福祉事業の現場では、介護を担当する職員と利用者の距離が密接になる傾向があるため、利用者やその家族による職員に対するハラスメントが問題になるケースが多くみられます。
このような労務環境では、職員が心身のバランスを崩し、病休や退職といった人材の流出に繋がり得ます。

(6)法的リスクのまとめ

このように、介護福祉事業を取り巻く環境から考えると、利用者やその家族との問題、職員との問題といったように様々な法的リスクがあり、円滑な事業のためには十分に備えておく必要があります。

2 介護福祉事業の経営者様からよくあるお悩み

介護福祉事業の経営者様は、上記のような法的リスクへの対応に苦慮されることがあります。

例えば利用者からの介護上の事故による損害賠償請求について、利用者自身においても不注意があった場合、過失相殺といった適切な主張を行うことにより、事業所側が負担する賠償金額について適切な額にまとめることが可能な場合があります。
このような法的主張について、事業所自身が通常業務を行いながら準備をすることは相当な負担となり、対応に苦慮され、弁護士に相談に来られることが多くみられます。

また、職員が離婚や相続、金銭トラブルといった個人的な法的トラブルに遭遇し、事業所がそのことについて相談を受けるといったこともあると存じます。
このような私生活上の問題については第一次的には職員自身の問題になりますが、円滑な労務環境のため、事業所において何らかの援助体制を作っておくことがより適切であると言えます。

3 介護福祉事業における顧問弁護士の役割と必要性

(1)顧問弁護士の役割

顧問弁護士は、事業所のお悩みについて継続的にアドバイスをすることができます。
例えば、利用者からの損害賠償請求に関し、弁護士が法的な観点から反論を組み立てることになりますが、そもそも事業所側に損害賠償責任が発生するのか、仮に発生するとしても減額させる事情がないのかといった検討は、弁護士の専門領域となります。
従業員との労務上のトラブルについても、弁護士が専門的な観点から助言することができます。
さらに、その案件限りのご依頼となる弁護士ではなく、顧問契約によって継続的に事業所と連絡を取り合っている弁護士であれば、コミュニケーションが円滑になることに加え、事業所の事業状況にも精通していることから、より適切な弁護活動を行うことが可能です。
継続的な関係を持っていれば、何事もベターな結果を残せることは事業所の皆様もご経験されることであると存じます。

(2)予防法務の観点における顧問弁護士の役割

また、そもそも法的な問題が発生するのを予防するという観点から、顧問弁護士が法的問題の発生前から助言や関与を行うことができます。
利用者やその家族から損害賠償請求をされるというのは、不慮の事故やクレーム対応における過誤といったように、事業所側に落ち度があると一方的な判断がされていることになります。
このような一方的な判断がされないようにするため、利用者やその家族の立場から、仮に何らかの事故が発生した場合であっても、日々の介護対応において十分な配慮を行っていたと考えてもらえるよう、事前の策を講じておくことが大切です。
具体的には、利用者の家族から介護上の注意事項について引き継ぎを受けること、事故を有効に防止し得る介護体制の構築、事故後のさらなる被害を防止する報告体制の構築といったように、事前に対応できることがあります。
どのような事前対応が適切かどうかは、日常の業務に精通している顧問弁護士であれば、適切にアドバイスをすることができます。

4 介護福祉事業でお困りの方は当事務所にご相談ください

当事務所の弁護士は、介護福祉事業の方々が直面する様々な法的問題について、豊富な知識と経験を有しています。
ぜひ一度、当事務所にご相談いただければと存じます。

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