1 はじめに
介護福祉の現場では、利用者やその家族による従業員へのハラスメント(カスタマーハラスメント=カスハラ)が数多く発生していることが、様々な調査で明らかとなっています。
厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、カスハラが発生するのは医療・福祉が最多であり、次いで宿泊・飲食サービスとなっています。
実際、ある企業の調査によると、介護に従事する従業員の約9割が利用者等からハラスメントを受けた経験があると回答しています。
近年、理不尽な要求や暴言により従業員の心身に悪影響を及ぼすケースが増え続け、職場環境の悪化や人材流出の要因にもなっています。
これに対処すべく、厚生労働省は、2024年12月26日、カスハラ防止策を全企業に義務付ける報告書をまとめ、労働政策審議会分科会で了承を得ました。
これにより、顧客等からの理不尽な要求や言動から従業員を守り、職場環境を改善することを義務付ける法案が、2025年の通常国会で提出される予定です。
いよいよ事業者が、カスハラ対策に明確な意識を向けなければいけない時代となったということです。
介護福祉業界も例外ではなく、むしろカスハラが高頻度で発生している業界として、カスハラ対策は必須かつ急務であるといえます。
もっとも、介護福祉の分野では、福祉という一般社会からは誤解されやすい関係性がベースにあることを要因として、一般企業とは少し違った状況となっています。
しかも、業務内容として顧客である利用者とは直接触れ合う機会が多く、さらに、日常生活全般の支援をするため利用者の家族とも密接なコミュニケーションが発生します。
また、利用者の家族は、利用者の日々の状況、施設内での普段の様子を把握しているわけではなく、かつ、自分が目にした状況だけで判断して発言することが多い傾向にあるため、誤解に基づく発言も多く、ひとたびカスハラが発生した場合の対処は容易ではありません。
そこで、このページでは、介護福祉という分野に着目して、利用者や家族からのハラスメント対応について解説いたします。
2 介護福祉におけるカスタマーハラスメントの例
介護福祉の現場におけるカスタマーハラスメント(カスハラ)については、厚労省が公表している「介護現場ハラスメント対策マニュアル」において、代表的なものとして以下の3つが挙げられています。
〇身体的暴力
〇精神的暴力
〇セクシャルハラスメント(セクハラ)
以下で、それぞれ順番に解説しますが、実際に介護福祉の現場で圧倒的に多いのは、「精神的暴力」です。
そして、介護福祉の現場におけるカスハラの大きな特徴は、サービスを受けている利用者本人だけでなく、その家族が行為者となることが多いことです。
利用者本人に特には問題がないにもかかわらず、家族からの無理な要求、暴言などが繰り返され、従業員が疲弊しているケースもあります。
冒頭で述べたように、家族は、利用者の日々の状況、施設内での普段の様子を把握しているわけではなく、かつ、自分が目にした状況だけで判断して発言することが多い傾向にあるため、実際に発生した事象を正しく理解できずに、誤解に基づく発言をする場合があるわけです。
なお、利用者からのカスハラの中には、認知症等の病気または障害の症状として表れる言動(BPSD:認知症の行動症状(暴力、暴言、徘徊、拒絶、不潔行為等)・心理症状(抑うつ、不安、幻覚、妄想、睡眠傷害等)のこと)も多々あり、医療的なケアが必要な場合もあることには注意が必要です。
(1)身体的暴力
身体的暴力を伴うカスハラは、利用者や家族が従業員に対して身体的な力を使って危害を及ぼすケースを指します。
従業員が利用者の身体介助を行っている最中に、突然手を挙げられる、殴られる、押されるといった物理的な攻撃を受けることがあります。
また、家族が感情的になり、従業員に対して威圧的な態度を取り、物を投げつけるなどの行動に出ることも報告されています。
身体的暴力に該当する言動の例は、以下のとおりです。
・コップや食器などを投げつける
・蹴りつける
・叩く
・唾を吐く
・手をつねる
・引っかく
・首を絞める
・従業員の眼鏡を壊したり、服を破ったりする。
(2)精神的暴力
精神的暴力を伴うカスハラは、利用者や家族が従業員に対して個人の尊厳や人格を言葉や態度によって傷つけたり、おとしめたりするケースを指します。
介護福祉の現場では、利用者やその家族からの暴言や侮辱的な発言が頻繁に報告されています。
利用者やその家族から、従業員に対して不当な要求がなされることもあります。
精神的暴力に該当する言動の例には、以下のものがあります。
・罵倒・暴言で相手の人格を否定する
・大声で怒鳴る
・スタッフに何度も嫌がらせをする
・高圧的な態度を取る
・必要以上に叱責する
・理不尽な要求をする
・土下座のような過度な謝罪を求める
・過剰なサービスを要求
・業務に対して過度に苦情を言う
・毎日のように細かいことにクレームをつける
【発言例】
「こんなサービスじゃ満足できない」
「お前なんかに世話してもらいたくない」
「なんでこんなに手際が悪いんだ」
「介護士ごときが」
「ちゃんと教育されていないんじゃないか」
「24時間付きっきりで世話をしてほしい」
「特別なサービスを無料で提供してほしい」
(3)セクシャルハラスメント
セクシャルハラスメントを伴うカスハラは、利用者や家族が従業員に対して意に添わない性的誘いかけ、好意的態度の要求等、性的ないやがらせをするケースを指します。
セクシャルハラスメントに該当する言動の例には、以下のものがあります。
・従業員の意に反した性的な誘いかけ
・身体的な接触
・性的な話や卑猥な言動(実際の報告例:ヘルパーの訪問時に、アダルトビデオを流す、卑猥な雑誌を広げた状態で置いておくなど。)
・好意的な態度の要求
・不適切な提案や要求
3 カスハラ(カスタマーハラスメント)となる要件・基準
(1)カスハラの定義・要件
最初にカスハラの一般的な定義・要件について確認すると、厚労省が公表している「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、カスハラを次のように定義しています。
「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」
つまり、カスハラについて、以下の3要素を満たすものと定義しています。
①顧客や取引先、施設利用者らが行うクレーム・言動であること
②クレーム・言動が社会通念上相当な範囲を超えていること
③労働者の就業環境が害されること
この3要素のうち、②「言動が社会通念上相当な範囲を超えていること」の判断については、顧客等の要求の内容が妥当かどうか、クレーム・言動の手段・態様が社会通念上不相当であるかどうかを総合的に勘案して判断すべきとされています。
そして、顧客等の要求の内容が著しく妥当性を欠く場合には、その実現のための手段・態様がどのようなものであっても社会通念上不相当とされる可能性が高くなると考えられます。
また、顧客等の要求の内容に妥当性がある場合であっても、その実現のための手段・態様の悪質性が高い場合は、社会通念上不相当とされることがあると考えられます。
③「労働者の就業環境が害されること」については、従業員が身体的または精神的に苦痛を与えられ能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業する上で看過できない程度の支障が生じることを意味するとしています。
(2)介護福祉におけるカスハラの判断基準
前述のカスハラの一般的な定義・要件を基本として、次に、介護福祉の現場で発生するカスハラの具体的な判断基準について解説します。
介護福祉の現場で発生するカスハラの判断基準を明確にすることは、従業員の安全と健康を守るために非常に重要です。
そして、カスハラを適切に判断し対処するためには、以下の基準を基に評価することが効果的です。
①要求の内容が妥当性を欠くかどうか
まず、利用者やその家族からの要求が妥当性を欠くかどうかを評価します。
通常の介護サービスの範囲内で行われる要求であれば、基本的には妥当とされます。
しかし、過剰なサービスや特別な対応を求める場合など、施設・事業所の提供するサービスの範囲外の要求、あるいはサービスとは関係のない要求は、その妥当性が疑われます。
具体的には、通常の業務時間外での対応要求や、他の利用者に影響を及ぼすような特別な配慮を求める場合などです。
また、施設・事業所が提供するサービスに過失が認められない場合には、利用者等の要求の妥当性が疑われることになります。
②要求実現の手段・様態が社会通念上不相当な言動かどうか
次に、要求を実現するための手段や態様が社会通念に照らして相当な範囲内かどうかを評価します。
以下の行為が確認された場合、要求内容の妥当性にかかわらず、手段・態様が社会通念上不相当であるためカスハラと判断されます。
・身体的な攻撃(暴力、傷害)
・精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)
・威圧的な言動
・土下座の要求
・継続的な(繰り返される)、執拗な言動
・差別的な言動
・性的な言動
・従業員個人への攻撃
③継続性と頻度
カスハラ行為が一時的なものであるのか、継続的に行われているのかも判断の基準となります。
短期間に繰り返し発生する場合や、長期にわたり断続的に続く場合は、カスハラと判断される可能性が高いです。
④被害を受けた従業員の心理的・身体的影響
実際に被害を受けた従業員の心理的・身体的影響も判断基準に含まれます。
精神的ストレスによる健康被害や、身体的な傷害が発生した場合、その影響の程度に応じてカスハラとして認定されます。
(3)カスハラとクレームとの境界について
一方で、クレームがすべて「カスハラ」に該当するわけではなく、客観的にみて、社会通念上、相当な範囲で行われたものは「正当なクレーム」であることに留意する必要があります。
クレームの元の意味は「正当な要求・主張」であり、カスハラは要求の根拠や理由が無いことが違いの一つです。
また、正当な要求・主張であったとしても、その伝え方が攻撃的であり、あるいは執拗に繰り返す等、それ自体が迷惑・危険な行為であればカスハラとなります。
正当なクレームに対して、カスハラと決めつけて対応してしまうと、無用のトラブルを生じかねませんので、留意する必要があります。
4 介護福祉と一般企業におけるカスハラの違い
(1)接客・対応時間
一般企業においては、基本的に商品・サービスを提供するときの顧客等との接触、すなわち接客・対応時間が、来店の時だけなど一時的なものであることから、カスハラのパターンもある程度決まっており、対策が立てやすいといえます。
また、一時的な接客・対応時間であることから、顧客等との縁を切ることも、比較的容易です。
これに対して、介護福祉では、継続的にサービスを提供することが前提となります。
施設の場合は、365日24時間、食事や入浴、排せつの介助など、利用者の生活のすべてに関わることになります。
このように、介護福祉では、利用者との接触が長く、かつ濃厚であるため、その分、ミスや誤解、行き違いなどのトラブルも生じやすくなります。
そして、日常的な関わりの中で、様々な要求、主張が生じるため、どこからがカスハラと認定すべきかの明確な線引きが難しいという、介護福祉ならではの問題があります。
また、深い関わりの中で、カスハラと認定しても利用契約を解除して縁を切るというのが難しいということも、介護福祉ならではの問題といえます。
(2)行政との関係性
介護福祉業界では、サービス料のほとんどが公費で賄われています(障害福祉サービスの場合は全額が公費)。
このことが意味するのは、施設・事業所は、国や都道府県、市町村の指揮命令に服さざるを得ないという点です。
この点が、基本的に企業独自で対策を講じることができる一般企業と異なるポイントとなります。
行政は、施設・事業所側からの契約解除について運営基準やガイドライン等で指導するなどしており、施設・事業所が自由にルールを決められる状況にはありません。
さらに、行政の立ち位置としては、社会的弱者とされる利用者の味方という印象であり、利用者や家族が行政に苦情を申し立てると、行政から施設・事業所に対して質問や改善勧告が出る、ということが一般的です。
このように、介護福祉では、カスハラの対応において、行政にも気を配らなくてはいけないという点が、介護福祉ならではの問題といえます。
5 介護福祉においてカスハラのトラブルを放置する危険性
冒頭で述べたように、カスハラにより従業員の心身に悪影響を及ぼすことは、職場環境の悪化や人材流出の要因になっています。
カスハラは、受けた側の心身に深刻な影響を与え、精神的ストレスによる不安や抑うつ、自尊心の低下などの心理的影響が生じることがあります。
また、睡眠障害や頭痛、胃腸の不調といった身体的な症状も現れることがあります。
そのようにカスハラによってストレス等を抱えた従業員は、利用者に対して十分な注意を払えなくなるでしょう。
そして、カスハラに対する恐怖心を抱いた状態で、利用者や家族に向き合うことが必須の仕事を続けることは、精神的負担が極めて大きく、心身の状態が悪化して休職や離職に繋がることも少なくありません。
さらに、カスハラは個々の従業員だけでなく、介護福祉サービス全体の質にも悪影響を及ぼします。
例えば、カスハラを受けて従業員が退職してしまった場合、残った従業員の負担増加を招きます。
その結果、介護福祉サービスの質が低下し、利用者の満足度も下がってしまいます。
そして、このような状況が続くと、介護福祉の従業員の離職率が上昇し、介護福祉業界全体の人材不足につながる可能性があります。
人材不足は残った従業員の負担増加を招き、さらなる離職を引き起こすという悪循環に陥る恐れがあります。
さらには、介護福祉業界におけるカスハラの噂が広まることで、新たな人材の確保も困難になる悪循環が起こってしまうこともあります。
このように、カスハラは、個人の問題にとどまらず、企業、さらに介護福祉業界全体の問題といえます。
6 介護福祉においてカスハラが発生した場合の対応
介護福祉の現場でカスハラが発生した際、迅速かつ適切な対応を取ることが重要です。
以下に、カスハラが起きた時の適切な対応方法を説明します。
(1)速やかな報告と詳細な記録
カスハラが発生した場合、まず従業員は、管理者等に速やかに報告し、報告書の形で詳細な記録を残すことが重要です。
報告書には、発生日時、場所、具体的な内容、当事者の氏名、目撃者がいる場合はその情報も含めます。
記録を残すことで、後の対応や再発防止策の検討にも役立ちます。
(2)安全の確保
カスハラが発生した場合、従業員の安全の確保を優先します。
暴力行為が伴う場合は、直ちに安全な場所に避難する必要があります。
また、施設・事業所内の他の従業員や警備担当者に応援を求めることも重要です。
そして、必要に応じて、警察や医療機関に連絡を取ることも考慮します。
(3)管理者による対応
カスハラの報告を受けた管理者は、すぐに状況を確認し、関係者からの事情聴取を実施します。
カスハラを行った利用者やその家族との対応においては、まずは対話を通じて問題の原因や背景を把握し、適切な対応策を講じます。
利用者やその家族との対話においては、感情的にならず、問題の解決に向けた冷静かつ建設的な話し合いを促します。
そして、具体的な問題点を説明し、改善策を提案することで、双方の理解を深めます。
さらに、必要に応じて、施設・事業所の方針や利用規約等を再確認してもらい、適切な行動を求めます。
(4)従業員へのサポート
カスハラを受けた従業員に対して、適切なサポートを提供することは必須です。
心理的なサポートとして、カウンセリングやメンタルヘルスケアを提供し、従業員の心のケアを行います。
また、カスハラに対する再発防止策を講じます。
7 介護福祉におけるカスハラ対策
(1)施設・所内体制の確立
厚労省はカスハラから従業員を保護するよう求める方針を示し、2025年には労働施策総合推進法を改正し、対応マニュアルの策定や相談窓口の設置など、従業員を守る対策が企業に義務づけられる見込みとなりました。
厚労省の「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」では、施設・所内体制の確立として、施設・事業所自身として取り組むべきこと、従業員に対して取り組むべきこと、関係者との連携に向けて取り組むべきことを掲げています。
その中から、カスハラ対策として特に重要な項目を挙げて解説いたします。
①ハラスメントに対する基本方針の決定・周知
施設・事業所の、ハラスメントに対する基本的な考え方やその対応について事業運営の基本方針として決定するとともに、それに基づいた取組等を行うことが重要です。
例えば、「ハラスメントは組織として許さない」といった考え方です。
そして、基本方針を定めたら、従業員と共有するとともに、従業員が、管理者等に相談した場合に、誰に相談しても、施設・事業所として同じ対応ができるよう、施設・所内での意識の統一が必要です。
②相談しやすい環境づくり、相談窓口の設置
カスハラの発生に限らずとも、様々なトラブルやリスクを従業員が抱え込むことなく、管理者に相談した上で、施設・事業所の事案として捉えて対応することが重要です。
施設・事業所として、従業員の相談を受け付けるフローを明確にし、相談窓口の設置等体制を整え、従業員に周知します。
また、相談しやすい職場環境づくりのために、管理者等は、従業員の変化を的確に把握できるように、日ごろから従業員と良好な環境を築いていくことが重要で、職場の風通しを良くするための取り組みを行うとともに、相談しやすい場を定期的に設けるなども必要です。
③従業員への研修の実施、カスハラに関する話し合いの場の設置
カスハラへの理解を深める上で、従業員を対象としたカスハラの予防や対策に関する研修を実施することが求められます。
また、従業員へのカスハラへの意識を喚起するためにも、定期的に行っていくことが重要です。
また、介護福祉の現場では利用者や家族への影響を考えて、従業員がカスハラを受けても我慢してしまい、表面化しないケースも少なくありません。
そこで、研修の一環として、カスハラに関する話し合いの場を職場内で定期的に開催し、カスハラは許されない行為であり、従業員が我慢するべきものではないこと、カスハラを受けたらすぐに報告・相談のできる職場を作っていくことが重要であることを、全員で確認していくことが大切です。
④行政や他職種・関係機関との連携(情報共有や対策の検討機械の確保)
介護福祉の現場におけるカスハラは、認知症のように医療的なアプローチが必要なケースがあります。
また、事態が深刻化すれば、暴行事件に発展するリスクも想定されます。
そのため、行政や病院など、外部機関との協力体制を構築することが大切です。
また、過去に利用者が利用していた施設・事業所、ケアマネージャーや地域包括支援センターなど、福祉関係の機関とも積極的に連携することも大切です。
利用者や家族の情報をあらかじめ共有しておけば、リスクをできるだけ回避するための対策等について検討できますし、カスハラの判断が難しい場面でも助言を得られるうえに、トラブルがあった際に組織の枠を超えて対応できます。
(2)対応マニュアルの作成
カスハラ対策としては、基本方針の策定や研修を実施するだけでなく、カスハラの対応マニュアルを作成することも重要な取り組みです。
このことは、前述の「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」にも掲げられています。
過去の事例を踏まえて作成したマニュアルがあれば、万が一カスハラが発生しても、悩まず速やかに的確な対応がしやすくなります。
そして、カスハラが発生した際の相談先やその後の対応方法を記載すれば、よりスムーズな対応が可能です。
対応マニュアルは、現場で利用者や家族に接する従業員の体験や意見を取り入れつつ、適宜見直しや更新を行っていくことが重要です。
こうした取り組みを通して、従業員同士でカスハラに対する課題や現場で感じていること等を共有することで、カスハラに対する意識や対応方法が向上し、働きやすい職場環境等につながると考えられます。
(3)利用契約書のチェック
カスハラを防止するためにも、利用者・家族への入念な説明は重要です。
こちらも、カスハラ対策として、前述の「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」に掲げられています。
介護サービスの内容に対する利用者や家族の理解が不十分だと、施設・事業所への不満が募り、カスハラが発生する原因になります。
新たにサービスを提供する際は、利用契約書や重要事項説明書を利用し、契約内容や業務範囲などを明示しましょう。
これにより、利用者が受けられる介護福祉サービスに係る契約内容について、利用者・家族と施設・事業者の認識があっているかを確認します。
事業所の資料だけでなく、厚生労働省や福祉局が作成した資料も活用すると、より効果が期待できます。
そして、利用契約書や重要事項説明書により、どのようなことがハラスメント(カスハラ)に当たるのか、ハラスメントが行われた際の対応方法、場合によっては契約解除になることを適切に伝えていくことが重要です。
8 介護福祉においてカスハラ対応を弁護士に相談するメリット
弁護士が関与することで得られる施設・事業所側のメリットは、以下の通りです。
〇普段通りの業務を続けられる
〇適切に状況を把握し、論理的に話を進めることができる
〇カスハラを繰り返させない
介護福祉のサービスの提供は毎日行われるものがほとんどであり、どのような状況でも、サービスの提供を止めることができない業界です。
本業以外の負担は大きなリスクになりかねず、サービスの提供を止めないことを最優先としつつ、日々次々と起こるカスハラへの対応・対策をしなければなりません。
しかし、普段通りの業務を続けつつ、カスハラの対応・対策をしっかりやろうと思うと、相当の労力、負担が発生し、現場にかかる負荷は相当なものです。
ここで、いかに通常のサービスの提供を止めずにカスハラの対応・対策を実施するかということでは、外部機関の活用が考えられます。
そして、その中でも特に弁護士を活用するという方法が考えられます。
カスハラをする者の多くは感情的で、威圧感を持ってねじ伏せようとする傾向が強いです。
そして、施設・事業所側が冷静に話し合う姿勢を示しても、カスハラをする者は一人で興奮し続け、施設・事業所側の非難を延々としてくる場合があります。
こういう場合は、法的根拠をもとに冷静に話し合いの整理ができる弁護士が介入することが効果的です。
そして、カスハラをする人ほど、施設・事業所側が弁護士を正式に代理人として立て毅然と向き合う姿勢を示すと、途端に静かになるということが多いのです。
要するに、施設・事業所だけで対応することには限界があり、普段通りの業務の継続とカスハラ対応・対策を両立させるためには、トラブル解決の専門家である弁護士に相談・依頼した方が合理的かつ効果的である、といえます。
9 介護福祉におけるカスハラ対応・対策は当事務所にご相談ください
介護福祉は人と人の関わりが密で、日々の生活をサポートする仕事ですので、いつ、どんなトラブルが起きるか分かりません。
トラブルまで至らなくても「これはカスハラではないか?」「カスハラが発生したがどう対応したらよいのだろうか?」と不安になったり、迷ったりすることも多々あると思います。
特に施設では365日24時間のサービスの提供が求められ、人員も限られている中で、発生したカスハラの対応はもとより、事前のカスハラ対策としての施設・所内体制の確立や対応マニュアルの作成、利用契約書のチェックなどについて、一から時間を使って調べたり、考えたりすることは大きな負担であるでしょう。
先ほども述べた通り、カスハラ対応・対策は、トラブル解決の専門家である弁護士に相談・依頼した方が合理的かつ効果的です。
当事務所では、カスハラ対応の経験も豊富にあります。
不安や疑問をすぐに対処することでトラブルの芽を摘むことにも繋がりますので、介護福祉におけるカスハラ対応・対策で少しでもお悩みの施設・事業所様は、ぜひ当事務所にご相談いただければと思います。
介護・福祉事業の解決事例
●介護・福祉 介護施設の建設工事のせいで自宅が傾いたとのクレームが周辺住民の1人から発生したのに対し、当該周辺住民宛てに送付する書面の文案を作成して収束に導いた事例
●介護・福祉 公益法人の監事に就任
●介護・福祉 利用者に軽傷を負わせる事故が発生し、高額の示談金を要求するなどのクレームを付けられたのに対し、示談金10万円の支払で合意して解決した事例