はじめに
近年、従業員のメンタルヘルス不調の問題に悩まされる企業・法人が増えています。
メンタルヘルス不調とは、うつ病などの精神疾患だけではなく、ストレスや強い悩み、不安などの心の不健康状態が幅広く含まれます。
メンタルヘルス不調が原因で働けない従業員が出た場合には、企業・法人としてはどのように対処していくべきかという問題があります。
また、メンタルヘルス不調が業務上の原因による場合には、労災認定をされたり、損害賠償を請求されたりすることがあります。
メンタルヘルス不調が長時間労働やパワーハラスメント(パワハラ)、セクシャルハラスメント(セクハラ)を原因とする場合などには、企業・法人が損害賠償責任を負うおそれがあります。
特に、従業員が自殺に至ったケースでは、巨額の賠償金の支払を課せられることもあるため、経営上非常に重大なリスクであると言えるでしょう。
メンタルヘルス不調の問題による企業・法人のリスク
メンタルヘルス不調が業務上の原因による場合には、労災認定をされることがありますし、長時間労働やパワーハラスメント、セクシャルハラスメントを原因とする場合などには、企業・法人が多額の損害賠償責任を負うリスクがあることは、上記のとおりです。
また、労働安全衛生法や労働基準法などの法令違反が認められる場合には、労働基準監督署から行政処分を受けることがありますし、書類送検や罰則の適用などの刑事責任を負うリスクがあります。
そして、メンタルヘルス不調が原因で働けない従業員が出た場合には、企業・法人としては後記のように慎重かつ適切な対処を取ることが必要となりますが、企業・法人が対応を誤れば、深刻な労務トラブルに発展するリスクもあります。
さらに、上記のような法的リスクだけでなく、従業員が自殺に至るなどの重大な事態が発生した場合には、取引先や従業員に不信感を与えることによって、取引の停止や優秀な人材の離脱、今後の人材確保が困難になるなど、企業・法人の経営に対して広範囲かつ重大な悪影響を及ぼすことが考えられます。
このように、従業員のメンタルヘルス不調の問題には、企業・法人にとって多大なリスクが潜んでいるのです。
従業員のメンタルヘルス不調の問題が発生した場合の対処
従業員のメンタルヘルス不調の問題が発生した場合、企業・法人としては慎重かつ適切な対処を取っていくことが求められます。
例えば、メンタルヘルス不調が疑われる従業員がいる場合には、精神科医などの診察を受けるように指導するべきです。
そして、医師の診断によって、メンタルヘルス不調を理由に自宅療養が必要であることが分かった場合には、休職命令を出した上で療養をさせる必要があります。
メンタルヘルス不調が回復してきたときには、復職可能な状態であるかどうかを適切に見極める必要があります。
復職が相当であると判断される場合であっても、復職当初にはどのような仕事をさせるか、どのようなペースで元の仕事に戻していくか、復職後にメンタルヘルス不調を再発したときにはどう対応するかなど、完全な復職に向けたフォローアップが必要となります。
ここで、メンタルヘルス不調を理由に自宅療養が必要であるかどうか、メンタルヘルス不調が回復して復職可能な状態になったかどうかについては、医師の診断書を提出させて判断材料とすることが多いのですが、診断書のみを根拠に判断することが適切ではないというケースも少なくありません。
例えば、診断書に「うつ状態で1か月の自宅療養を要する」と書かれていたとしても、直ちに「1か月休んだら復職できる」という意味ではありません。
また、診断書に「負荷を軽減した業務であれば従事できる」と書かれていたとしても、主治医の診断書は患者である従業員の希望を反映したものであることが多く、また具体的にどの程度の業務軽減が必要であるのかなどの判定が困難かもしれません。
そこで、従業員の承諾を得た上で医師と面談し、そのような診断に至った理由や今後の対応について聴き取りを行うことで、診断書だけでは分からない詳細な情報を把握することができるでしょう。
また、企業・法人側で指定する医師の診断を求めることや、産業医の意見を聴取することなども考えられます。
ご注意いただきたいのは、メンタルヘルス不調の従業員に対して、執拗な退職勧奨を行ってしまうと、後々、違法な退職強要を受けたとして法的トラブルに発展するリスクがあるということです。
また、従業員のメンタルヘルス不調の問題が発生した際に、上記のような慎重かつ適切な対処を取ることを怠って、その従業員を解雇するという対応をした会社の処分が違法・無効と判断された裁判例も存在しますので、対応に当たっては十分にご注意ください。
従業員のメンタルヘルス不調の問題が発生した場合、企業・法人としてはどのような対応で臨んでいくべきなのか、休職命令や復職の判断はどのように行うべきなのか、完全な復職に向けたフォローアップをどのように進めていくべきなのかなど、企業・法人にとっては非常に悩ましい問題と言えるでしょう。
法律や裁判例に関する知識やノウハウに基づいて、慎重・複雑な検討・判断を求められるケースも多々ありますので、従業員のメンタルヘルス不調の問題への対処についてお困りの企業・法人様がいらっしゃいましたら、メンタルヘルスの問題に詳しい弁護士にご相談いただくのがよいでしょう。
企業・法人が取るべきメンタルヘルス対策
上記のように、従業員のメンタルヘルス不調の問題には、企業・法人にとって多大な法的リスクが潜んでいます。
また、上記のように、従業員のメンタルヘルス不調の問題が発生した場合には、企業・法人としては慎重かつ適切な対処を取っていくことが求められ、対応に多大な労力と時間を割かなければなりません。
そのため、企業・法人においては、従業員のメンタルヘルス不調の問題を未然に予防する対策を講じていくことが大切です。
具体的には、従業員のメンタルヘルス不調の原因となり得る長時間労働やパワーハラスメント、セクシャルハラスメントの防止策を講じていくこと、ストレスチェックの活用などによって職場のストレス要因を把握し、作業量や人材配置、人間関係などの職場環境の改善を図っていくことなどが考えられます。
また、事業主や上司が部下の相談対応を行うなどして、早期発見・早期対応に努めること、外部の医療機関や産業医と連携して、従業員のメンタルヘルス不調へのケアを行うことなどが考えられます。
弁護士にご相談ください
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